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2018年06月05日07:23

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都会は便利

 人口減による地方消滅や医療過疎問題などに危機感を持ってそのことを声高に論じる人たちの多くは、都会に住んでします。
 そういえば、豊かな自然に憧れる人々も、都会に住んでいます。

【ただいま読書中】『死体とご遺体 ──夫婦湯灌師と4000体の出会い』熊田紺也 著、 平凡社(平凡社新書)、2006年、700円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4582853196/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4582853196&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=3fa46d011d388086643088efd9f722cb
 映画「おくりびと」や本『納棺夫日記』では葬儀に携わる人の心の内面や仕事の現実が表現されていましたが、本書は「湯灌師」の著作です。納棺もしますが、その前に湯灌をすることを「自分の仕事」としています。「おくりびと」や『納棺夫日記』では、前職がうまくいかずにこの職に就いた、とありましたが、本書でも著者は経営していたCM制作会社がバブル破裂で倒産して、という前歴を持っています。
 湯灌は、私も家族のお葬式でお世話になりましたが、細やかにやってもらうとこちらの心もすっと穏やかになる効果があります。昔は家族がやるものだったそうですが、慣れない人間がやるとやる人間も見る人もトラウマになるでしょうね。
 ただその「家族が湯灌を行う」は日本ではいつの間にか廃れてしまったそうです。湯灌どころかお葬式をする部屋さえない家が増えたためかもしれません。それが復活し始めたのは1980年代。西日本から始まり、少しずつ東日本でも広く行われるようになりました。
 そういえば、どこの地方だったか、喪主が遺体を背負ってそのまま湯船につかる、という大胆な「湯灌」をするところもある、というのは、なんで読んだのだったかな。実は本書に、それに近いような話も登場します。
 著者の「サービス」は、介護での出張入浴サービスとちょっと似ています。専用の浴槽とボイラーを葬家(あるいは湯灌部がない葬祭業者の会場)に車で持ち込み家族の前で湯灌をします。
 著者は「借金返済」という、身も蓋もない動機で湯灌業を始めました。やる以上はプロとして最高の技術を提供したい、と腕を磨きます。ところが、湯灌作業をしている途中、それまで戸惑いながら“遠巻き"にしていた遺族の感情が劇的に変化する瞬間を味わうようと、まるで観客が熱狂するライブで演奏する表現者のような「一体感」を喜べるようになったのです。それは「死体」が「ご遺体」に変化する瞬間でもあるそうです。そこから著者は、遺族を「受け身の立場」ではなくて「個人の旅立ちの作業に参加する人々」として見るようになります。
 ついでですが、著者夫妻は、仕事が終わって家に帰ったときに、清めの塩はまかないそうです。だって「ご遺体」は穢れた存在ではないのですから。私自身、葬式帰りで清めの塩を使ったことはないので、その意見に納得です。
 著者の印象に残った特別なご遺体の話もあります。その話の流れで「自殺者へのアドバイス」が本書にあります。それは「首を吊るなら、細いロープを選びなさい」。太いロープの何が問題かは、本書をどうぞ。飛び降り自殺の「修復」の話は生々しい。骨折を修復し(といっても手術するわけではありません。一見真っ直ぐになるように固定することです)、飛び出た目玉は押し戻し……これは誰にとっても嬉しくない作業です。ただ、そういった「修復」を最初からあきらめたくなるのが、鉄道への飛び込み自殺。理由は……わかりますね? 交通事故や火事での焼死でも、一人一人(一体一体)がまったく違っていて、遺体修復作業は別々の細心の注意を必要とします。
 宗教の違いにも注意が必要です。タブーを犯してはいけませんから。ただ、著者は「およびでない」状況でも見学をさせてもらっています。「いつか役に立つ」ではなくて「単なる好奇心」だそうですが。
 少々の変死体では著者はたじろぎません。少々、というか、相当のものでも「プロだから」ときちんと仕事をします。しかしその著者でも耐えられないのが……子供。これ、そうでしょうね。ここで効いてくるのが、湯灌師は男女ペアで仕事をすることです。
 本書を読んでいて「葬祭儀式」には「遺族が個人の死を受け入れるためのプロセス」という大きな意味があることが、「理屈」ではなくて「現実」としてわかります。この仕事をして下さっている皆さんに感謝です。彼らを蔑む人がいるって? そういった人は、自分の家族が死んだとき、どうするんでしょうねえ。自分が蔑んでいる人に大切な家族を任せるのかな? それともご自分で全部やるのかな?


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