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2017年10月25日07:13

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コーチ

 コーチによって名選手が生まれたとき、それを鼻にかけるコーチはいます。しかし、コーチによって「金の卵」が潰されたとき、その責任をとるコーチはいません。

【ただいま読書中】『プロ野球スカウトの眼はすべて「節穴」である』片岡宏雄 著、 双葉社、2011年、800円(税別)
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 著者自身が元ヤクルトのスカウト部長なのに、ずいぶん刺激的なタイトルです。
 2010年秋のドラフトで、かつての「ハンカチ王子」斎藤佑樹(早稲田大学)に4球団が競合しました。それを見ながら著者は「斎藤は球界を代表するピッチャーになる可能性は低い。ただ、その知名度を活かしてこれからのスカウティングが楽になる(有望選手が「あの斎藤がいる球団だったら」とスカウトの話を聞いてくれるようになる)可能性は大きい、と考えていました。この“見立て”が正しかったかどうか(著者の目が「節穴」だったかどうか)は以後の数年間を見たら明らかです。
 1993年、ドラフトに「逆指名制度」が導入されました。大学・社会人の二人だけ、契約金の上限は1億円(+5000万円の出来高払い)でしたが、即戦力の有望選手が二人取れるのだったら「逆指名」を取り付けるのに最も手っ取り早いのは「裏金」です。97年のドラフト直前、ヤクルトは高橋由伸選手を獲るために5億を用意しました(著者は「33年のスカウト人生で出会った中で最高の打者」と高校〜大学時代の高橋を実に高く評価しています)。ところが大学の監督は「実は彼の父親の土地が焦げ付いていて……」と意味深なセリフを。その金額は60億。ヤクルトにはそこまでの金は用意できませんが、さらに5億を上乗せしました。高橋自身もヤクルト入りを希望します。ところが深夜に「家族会議」が開かれ、その直後高橋選手は「巨人を逆指名します」と発表しました。
 著者は「メンタルの弱さ」が原因でプロとして通用しませんでした。その挫折体験からスカウトの基準を「メンタルの強さ」に置いています。単に「優秀な選手」だけではダメなのです。著者とは別のスカウトはおそらく別の基準で選手を選別しているでしょうが、その場合でも単に「球の速さ」とか「打撃力」だけではなくて「今のチームに必要な戦力か」「将来のチームに必要か」なども勘案しているはずです。
 著者のスカウト作業は「古い」ものです。スピードガンどころかメモも取りません。投手なら一イニング、打者なら一打席、すごい場合はユニホームで立っている姿をちらっと一目見たらそれでおしまい。でも「素質」を見抜くにはそれで十分だそうです。本書で面白いのは「大成する選手を見抜いた」成功例だけではなくて、失敗例(獲ったけれど大成しなかった、素質を見抜けなかった選手)も書いてあることです。掛布(ミスタータイガース)や落合博満を低く評価して獲らなかったことを正直に書いてあります。いやいや、人を評価するって、難しい仕事なんですねえ。
 ここまでは「スカウトの表の話」。高橋由伸選手の所にも登場しましたが、「裏の話」もけっこう露骨に登場します。たとえばアマチュア選手への「栄養費」。逆指名時代の裏契約金。金を要求する高校・大学・社会人の監督。多額の金をどんと使えるのは、巨人・西武・ダイエー。西武は「寝技」と「マネー」で有望選手を次々獲得し、その多くは入団後に活躍しています。巨人とダイエーも大金で有望選手を獲得していますが、実はその活躍ぶりはそれほどでもありません。何が違うんでしょうねえ。
 著者は選手をスカウトするとき、「チーム」との相性を考えます。即戦力だったら一軍の監督とコーチ、育てる選手だったら二軍。スカウトはそういった人たちの指導方針に口を挟めません。だからこそ「相性」を重視するのです。ここでも著者は、ご自分の経歴の影響でしょうか、成功体験しか持っていない人よりも挫折から這い上がったコーチの方を信頼しているようです。ただ、一軍監督は「短期的な結果(目の前の1勝)」を求めます。しかしスカウトや二軍のスタッフは数年後のことを考えています。そのギャップが悲劇を生む場合もあります。その典型が、「再生工場」で有名な野村克也監督だそうです。いやもう、著者の言い分だけ聞くと、ひどいエピソードがてんこ盛り。本当は両方から意見を聞かないといけないんですけどね。


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