まだコンピューターが一般的ではなかった昔のＳＦ映画では、壁一面にぎっしりと機械が並んでメーターの針が盛んに上下し、パイロットランプはちかちか点滅し、鑽孔された紙テープがべーっと出てくると人がかけつけてそれを肉眼で“読む”という光景がけっこう出てきました。人間工学的にはものすごく情報を取得するのが難しそうなのですが、当時はそれが最先端のにおいがするものだったわけです。
ことろが今の原子力発電所の操作室の光景が、それとよく似ているのには驚きました。事故の時に全体像が把握できないのは、人の能力の問題だけではなくて「実際に何が起きているのか」「何が問題か」を人間にわかりやすいような形で情報を吐き出してくれない機械システム設計の方にも大きな問題があるのではないか、と私には思えます。
【ただいま読書中】『ＳＦ映画で学ぶインタフェースデザイン ──アイデアと想像力を鍛え上げるための141のレッスン』ネイサン・シェドロフ、クリストファー・ノエセル 著、 安堂幸央 監訳､ 丸善出版、2014年、3200円（税別）
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本書の前書きはブルース・スターリング（「ちなみにご存じないかもしれませんが私はＳＦ小説を書いています」と自己紹介しています）ですが、映画のパイオニアであるメリエスの「月世界旅行」（1902年）には「インタフェースが存在しない」という指摘がされています。そういえばたしかに、あの映画には会議の場面とロケットはあったけれどインタフェースはありませんでしたね。つまり100年前には「インタフェースとは未知の概念」だったのです。しかし「機械」が社会に普及し、ボタンやつまみやレバーなどは一般的な存在になりました。
「宇宙大作戦」の宇宙船では、ぴかぴか光るボタンが山ほど操作盤に散りばめられていました。ところが1980年代の「新スタートレック」では予算の制限がきつくてそれが再現できず、デザイナーはフラットなプラスチック板に操作盤の絵柄をプリントした「タッチパネル操作盤」を生み出しました。
ＳＦ映画の操作盤で一番愛用されている色は「�悄廖�そして、人は「青→黄」への移行が認識しづらいという特性を持っているそうです。するとその知識を応用したら、何か画面で面白い効果が得られるかもしれません。「画面」は基本的に矩形ですが、これを円形あるいは楕円形などにすると、近未来的なイメージが強まります。ということで、ＳＦ映画でも現実社会でも、インタフェースを差別化するために有効なのは、独創的な色彩の配合や書体、画面と操作系のレイアウトを創造すること、です。クライアントやディレクターの多くは保守的で、「消費者に馴染みがないもの」を市場に出すことに及び腰になるのだそうですが、視覚的要素が適切で混乱を生まないものだったら、どんどん出せば良い、と著者は主張します。
「立体投影」も映画で「未来」を示す簡単な手段です。ただし視聴者には「これは立体投影です」ということを示す必要があります（本物のように見せて騙した場合も、その後ネタばらしをする必要があります）。通信に立体投影を使う場合、「視線一致（アイコンタクト）」をどうやって確保するか、という面白い問題が生じます。
「ジェスチャー」もまたインタフェースです。著者が調べた中で最古の例は1951年の映画「地球の静止する日」だそうです。ＳＦ映画でもっとも有名なのは「マイノリティ・リポート」でしょう。あれは実に華麗な手さばきでしたね。もっとも、心臓よりも高く手を挙げてあらゆる方向に動かし続けることは大変疲れる作業だったため、トム・クルーズは撮影中にたびたび休憩を取ったそうです。
「音」もまたインタフェースです。身近なのでは、目覚まし時計、電話のベル、音声入出力。そういえば、iPhoneの「Siri」も、初期型は私の声をなかなか認識してくれませんでしたが、最近のはあっさり反応してくれます。技術の進歩はすごいものです。かつての「ＳＦ」は今は「普及している現実」なのですから。
「通信」の章では、「現実の通信インタフェース」を開発するときに押さえるべき「通信の本質」が列挙されます。映像、音声、テキストなど使われるものは様々ですが、それらを確実に届ける（受け手がどんな環境にいても受信に気づき反応できる）システムが必要です。ということは、現在の通信インタフェースも、まだまだ工夫の余地はある、ということなのでしょう。
「インタフェース」とは、「どのように操作するか」の具体的な手順を示す「もの」であるだけではなくて、「何をどのように操作するべきか」の「思想」もまたそこに体現されているようです（だから「時代の制約」が露骨に出てきます）。だからこそＳＦ映画で「時代を示すアイコン」として機能するのでしょう。
今日の冒頭で書いた「原子力発電所のインタフェース」ですが、あれは「事故が起きる」ことが前提になっていないからあんな設計になっているのではないか、と私は思いつきました。だとしたら、あのわかりにくい操作盤は、まだまだ改良の余地があります。ただそのためには「事故に対する思想」を刷新する必要もあるでしょうが。逆に言ったら、「事故に対する思想」がちゃんと刷新されたら、それは現実のインタフェースの刷新を伴うはずです。
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