mixiユーザー(id:235184)

2015年01月17日07:26

146 view

16世紀の親方

 つい先日読書をしたばかりの『『死刑執行人 ──残された日記と、その真相』(ジョエル・F・ハリントン)には16世紀を生きた「親方」として死刑執行人のフランツ・シュミットが登場しました。本日は別の種類の「16世紀の親方」です。

【ただいま読書中】『消えた印刷職人 ──活字文化の揺籃期を生きた男の生涯』ジャン=ジル・モンフロワ 著、 宮下志朗 訳、 晶文社、1995年、
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4794962398/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4794962398&link_code=as3&tag=m0kada-22
 1594年、印刷所がないスダンから招聘されて、アベル・リヴリは一家と刷り工を一人連れてハイデルベルクから出発します。「親方」になれるチャンスなのです。正確には「また」親方になれるチャンス、なのですが。
 18年前、若きアベルはジュネーヴの若い親方でした。仕事が忙しくなってリヨンから刷り工のミシェルを雇いますが、その男が自分の妻マルゴと密通。妻は司法権が及ばない市外に逃げだし、ミシェルは姦通罪で逮捕されます。当時のヨーロッパで姦通罪は重罪だったのです。しかしミシェルの逮捕は、アベルの仕事にも重大な影響を与えました。職人が一人欠けても印刷チームは機能しなくなるのです。
 アベルの没落と遍歴の旅が始まります。親方としてはやっていけなくても、腕の良い植字工としては立派に身を立てることができるはずなのに、アベルは自堕落な生活の中、泥酔し契約から逃亡し、果てしなく身を持ち崩していきます。しかしリヨンの路地裏での出会いがアベルの運命を変えます。
 そしてふたたび1594年。最高会議議長の承認の下、アベルは定数の半分のチームを率いて印刷業務を熱心におこないます。2年間にわたり、アベルの印刷工房は着実に作品を世界に送り出しました。そして……
 ページの隅々から「16世紀の匂い」が立ち上ってくるような文体の文章と描写が続きます。アベル・リヴリはそこで「生きている存在」として描かれています。ただ、内面描写が本当に生き生きとされるのは、アベルの最初の妻マルゴの方なのですが。一見ただの尻軽女ですが、この人もなかなか興味深い存在です。男たちは「新教と旧教の対立」「神の言葉と世俗の権力の対立」の間を泳いでいますが、彼女は「神や権力や習慣の束縛からの脱出」を夢見ているのですから。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年01月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031