mixiユーザー(id:235184)

2015年01月13日07:39

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声の演技力

 優秀な声優は、本当にすごいテクニックをいろいろ駆使されますが、たとえば満面の笑顔で悲鳴を上げられるのでしょうか? 笑っていると喉の筋肉が緩んでしまいそうな気がするのですが。

【ただいま読書中】『生物進化とハンディキャップ原理 ──性選択と利他行動の謎を解く』アモツ・ザハヴィ/アヴィシャグ・ザハヴィ 著、 大貫昌子 訳、 2001年(05年2刷)、3800円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4826901011/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4826901011&link_code=as3&tag=m0kada-22
 1973年に著者らは「孔雀の羽の進化」を研究し始めました。わざわざあれだけ派手なディスプレイをこしらえ維持するのは、大変なコストをその孔雀に強いることになります。余分な「ハンディキャップ」でしかありません。しかしそのハンディこそが進化論で意味がある、ということを著者らは75年から提唱し始めます。その理論は、はじめは無視、ついで拒絶されていましたが、やがて新しい数理モデルが登場して、最近では受け入れられるようになってきているそうです。著者は、動物のディスプレイや行動に「ハンディキャップ」が存在するのは、同種だけではなくて異種(たとえば捕食者と被食者)の間の「コミュニュケーション」としても役立っている、と主張します。
 地面の藪で餌をあさるチメドリは空を猛禽が飛んでいるのに気づくと、まず見張りが鋭い鳴き声を立てます。これは「群れに対する警告」と解釈されていました。しかし不思議なことに、それに続いて群れ全体が梢に上がって大声で鳴き続けます。さらに猛禽がそれに気づいて降りてくると、偽の攻撃行動を取ります。これは「群れに対する警告」の範疇を明らかに超えています。著者はこれを「お前に気づいたぞ」という猛禽に対するメッセージと解釈します。「気づいたぞ。警戒しているぞ。だから襲っても無駄だぞ」と言っているのだ、と。それに似た行動はガゼルにもあります。ガゼルはリカオンやハイエナに気づくと、その場で高くジャンプして見せます。ストッティングと呼ばれる行動ですが、著者は「自分はこんなに元気だぞ。追いかけても無駄だぞ。もっと元気がないものを襲え」とメッセージを発しているのだ、と解釈します。実際、弱っているものはそんな“無駄な行動”をせずにさっさと逃げ出しますし、捕食者はそちらを追う傾向が強いそうです。「メッセージ」は機能しているのです。つまり「メッセージ」は両者に利益があるわけです。
 このとき「メッセージの信憑性」を保証するのが「投入されるコスト(=ハンディキャップ)」です。どのくらい真剣にメッセージを発するか(発する余裕があるか)を示すことで、信憑性を自ら保証しているのです。たとえばヒバリはコチョウゲンボウに追われているとき、逃げ切る自信があると囀ります。コチョウゲンボウはそれを聞くと、囀らないヒバリの方に追跡の目標を転じます。呼吸を飛ぶこと以外にも使えるとは、余裕を示しているわけですから、追う側としては追跡行動のコストを投入する価値がなさそうです。子供たちの鬼ごっこで、自信がある子は逃げながら鬼をからかうのと似ています。
 「威嚇」もまた著者の解釈では「本気度と自信を示すためにハンディキャップを負う態度」になります。なぜなら威嚇の時の姿勢は戦闘には不利な恰好ですから。人間の場合でも、胸を張って頤を上げてずいっと相手に近寄りますね。これって相手が本気で攻撃するためなら、隙だらけなんですけど。
 求愛行動や利他的行動など、著者の主張する「発信者と受信者の協力によるコミュニケーション」で読み解くと、これまでの動物学や進化論とはちょっと違った世界が見えてきます。「世界のすべて」が「ハンディキャップ原理」で読み解けるわけではありませんが(著者もそのようなことは主張していません)、少なくとも「世界の複雑さ」を味わうためには、とても有用な原理である、と私には感じられました。ちょっと専門的で学術的でやや難解ではありますが、読む価値はある本です。


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