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2015年01月07日06:37

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怒りのエネルギーのはけ口

 この社会は不公平で不合理です。そういったことに怒りを感じる人間は、そこでその「怒りのエネルギー」をどう使うかで二種類に分かれます。一つは社会を公正なものにしたいと望み行動する者。もう一つは、そういった社会を容認しその中で自分の地位を向上させようと決心する者です。
 怒りを感じない人はまたいくつかに分かれますが、それは別の運命になります。

【ただいま読書中】『世にも奇妙なマラソン大会』高橋秀行 著、 本の雑誌社、2011年、1600円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/408745181X/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=408745181X&link_code=as3&tag=m0kada-22   
 世の中には「火事場のくそ力」とか「老人力」とかいろんな力がありますが、著者が持っているのは「間違う力」だそうです。その力によって深夜に書いたメールによって、著者は「サハラマラソン」にエントリーしてしまいます。しかし著者はランニング初心者。それが突然砂漠のマラソンに挑戦? 無謀です。無帽だとたぶん死にます。
 目指すは西サハラ。モロッコから独立しようとして、モロッコ以外の全アフリカからは認知されている“国(実態は砂漠の中の難民キャンプ)”です。しかし、西サハラを熱心に援助しているのは……アルジェリア・リビア・キューバ……あらら、欧米諸国が西サハラ問題に積極的に取り組まない理由の一端が見えてきました。ついでに、『星の王子様』のサン・テグジュペリが飛んでいたのが西サハラ上空だそうです。
 意外にも、世界中からランナーが集まっていましたが、アジアからは著者一人だけ。なんと「アジア代表」です。一番の多数派は、西サハラと同様スペインの支配からの独立を願うバスク地方の人びと。なんだか民族主義のマラソン大会のようでもあります。
 西サハラでは「女性に関するイスラムの戒律」がひどく緩んでいました。女性が家の中でも外でも外国人の前でも、平気で仕事をこまめにしているのです。これは長引いた内戦の影響で、女性も活用しないと日常生活が成立しなくなっているからでしょう。著者はかつて見たソマリランドでも同じ現象が起きていることを思い出します。
 そしてマラソン当日。著者がこれまでの人生で走った最長距離は15km。しかもその翌日はとんでもない筋肉痛に苦しんでいます。それが砂漠でのフルマラソンです。無茶を通り越しています。それでもスローペースを守って著者は走り続けますが、そのうち脚が痙攣し始めます。それも両脚全体の筋肉が。
 2〜3kmごとに給水所があり、水とナツメヤシが提供されています。しかしそこに配置された西サハラ人たちもまた、暑さで消耗していきます。それでも彼女たちはランナーを励まし続けています。著者は「世界中のボランティアが走ることで西サハラを応援している、はずだったのに、西サハラ人のボランティアによって自分たちが支援されている」ことの奇妙さをかみしめます。かみしめながら、なんと完走。完走できたことに、周囲はもちろん、本人が一番驚いています。タイムは5時間40分ですが、私の場合、砂漠を走るどころか、日本の舗装道路の上でも5時間歩くことさえできないでしょうね。いやいや、すごいや。
 本書には他にも、「岩薔薇おやじから貞操を守った話」や「インドに入国するために離婚を画策する話」や「インドのペルシア絨毯の怪しげな話」など、奇譚が満載ですが、本書に充満しているのは「世界に対する強烈な好奇心」です。あまりに強烈なので、世間一般での日常生活からははみ出たエピソードが放っておいても著者の回りに勝手に集まってくるのでしょう。これも一つの才能(一種の「力」)では?


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