およそ7000万年前の白亜紀末期、恐竜の時代が閉じられようとしていた頃、南米パタゴニア地方最南端に、コステンスクス・アトロックス(Kostensuchus atrox)と名付けられた古代のワニが生息していた。不敵に笑う口元からは、鋸のように並んだ50本以上の鋭い歯がのぞいている。昨年8月27日付で科学誌「PLOS One」に新種として記載された。
◎人をも真っ二つにできるほどの強力な噛筋と歯
コステンスクス・アトロックスは超肉食性(hypercarnivorous)爬虫類だ。つまり彼らはほぼ肉しか食べなかった。また頂点捕食者であり、円錐形でナイフのようなティラノサウルス・レックスにも匹敵する歯を持っていた。そう語るのは、今回の新種発見に関わった古生物学者ディエゴ・ポル博士だ。巨大な顎の筋肉は肉を噛み切るのに適しており、1回噛んだだけで、人間でもを真っ二つにできるだろうと言う。
見つかった頭骨と骨格の一部は驚くほど保存状態が良かった(写真)。ポル博士、そしてアルゼンチン、ベルナルディーノ・リバダビア自然科学博物館のチームは、ブラジルと日本の研究者たちとともに、それらを基に今回の新種を発表した。
新種ワニの体長は推定3.5メートル、体重はおよそ250キロと推定され、現代の最大級のワニよりは小さい。しかし現代のワニより長く直立した肢を持っており、陸上で恐竜を含む獲物を狩るのに役立った可能性がある。ただし、他の研究者の間には異論もある。
◎陸棲のワニだった
コステンスクスの背骨には骨折が治った痕があるので、彼らは餌やテリトリーをめぐって互いに戦っていたのかもしれない(想像図)。
コステンスクスが南極に近いパタゴニア南部で発見されたことは、今でこそ雪と氷に覆われているものの、白亜紀の頃は温暖湿潤だった高緯度の気候で、古代のワニの仲間が繁栄していたことを示唆している。
コステンスクス・アトロックスは、絶滅したペイロサウルス科に属する。ペイロサウルス科は現代のワニの仲間だが、直接の祖先ではない。その多くは陸生で、6600万年前の大量絶滅の際、非鳥類型恐竜とともに絶滅した。
その中で、コステンスクス・アトロックスはこれまでで最も南で発見されたペイロサウルス科の新種となる。また同科の化石では保存状態や骨格の揃い方が最も良いものの1つだ(下の写真の上=コステンスクス・アトロックスの胸郭の骨;下の写真の下=ベージュ色の岩塊に埋め込まれたコステンスクス・アトロックスの頭蓋と顎の骨)。
◎恐竜化石の見つかるチョリロ層に化石探しに行く
2020年3月上旬、ベルナルディーノ・リバダビア自然科学博物館の古生物学者であるフェルナンド・ノバス博士とマルセロ・イサシ博士は、アルゼンチン、サンタ・クルス州エル・カラファテの町から約30キロ離れたチョリロ層へ化石の発掘に出かけた。
この地層からはメガラプトル類のマイプ・マクロソラックス(Maip macrothorax)や、ティタノサウルス類のヌロティタン・グラシアリス(Nullotitan glaciaris)、鳥脚類のイサシクルソル・サンタクルケンシス(Isasicursor santacrucensis)が見つかっている。
調査1日目、ベースキャンプを設営後、約30人の科学者と技術者は化石探しに出発した。重いスキャナーなどの装置を背負いながら山の中を何キロも歩いた。しかし、大した発見は得られなかった。
ところが、日暮れ直前になって幸運が訪れた、と発見者のイサシ博士は語る。
◎「頭骨だ!」と叫ぶ
調査隊がほぼ全員キャンプに戻った後、イサシ博士は最後の1人が戻ってくるのを、古生物画家で論文共著者のガブリエル・リオ氏と一緒に待っていた。しばらく待っても姿が見えないので、2人は心配になって探しに戻ることにした。
しばらく行くと、まだ戻ってきていない隊員の叫び声が聞こえた。安心してペースを落としたイサシ博士は、ちょうど大きな岩と石灰質の塊がある場所を通り過ぎようとした。
その時、ベージュ色の岩に埋まっている何かに気が付いた。よく見てみると、黒い骨だった。「リオ氏に見せると、驚いた声で『歯だ。しかもかなり大きい』と言うんです。すぐに目を上げると、岩の割れ目に、見間違えようのない影があるのに気づきました。それで、『頭骨だ!』と叫んだんです」。
(この項、続く)
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