「市井に生きる人への優しいまなざし、芥川を生んで間もなく心を病んだ母への愛慕、そして後年になって芥川を悩ませたシニシズム。この作品には芥川龍之介のすべてが詰まっている。」
学生の頃、国語の教科書で読んだ定番作品が多く、原文も引用されているので、懐かしい心持ちになる。あまり多くの教科書には掲載されていない、未知の作品も紹介されている。冒頭に挙げた芥川龍之介の『杜子春』の文章のように、物語の本質を捉えた解説が読み応えがある。コンテクスト、文脈や背景も丁寧に掘り下げられる。夏目漱石の『坊っちゃん』を佐幕派への鎮魂の物語と捉えたり、泉鏡花の『高野聖』に見られる四つの対立項など、どの読みも興味深い。
国語の教科書というと、道徳的であったり、一面的であったり、ネガティブな印象を持たれることもあるが、やはり深い読み方を可能とする名作揃いであるように思う。本書には挙げれていないけれど、中学校の国語の教科書で出会った、長野まゆみさんの『夏帽子』のおかげで、自分も本の世界の魅力へと誘われた。
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