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2024年05月26日21:19

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本棚630『仕事と人間(下)』ヤン・ルカセン(NHK出版)

 本書は時間の面でも、空間の面でも、類書に比べて極めて広範である。
 時間の面では、70万年もの遥かな人間の労働の歴史を射程に入れる。その歴史の98%の期間は狩猟採集であり、約1万年前になってようやく農耕が中心となり、近年の工業社会や情報社会における労働はほんの新参者に過ぎないことが分かる。
 また、空間の面では、従来の欧米の白人男性中心の労働史ではなく、世界全体を見据えたグローバルな広がりを持っており、南米やアフリカにおける過酷な奴隷労働なども詳しく記述される。
 この下巻では1500年以降を対象とし、産業革命による工業化や、奴隷制などの非自由労働の減少と賃金労働の増加、今後の展望が書かれている。

 著者は、「人類以前からある最古の欲求は、いっしょに働くこと、協力すること」と言い、「意義、協力、公正ーこれがこの仕事の物語から導かれる答えである」と本書を締めくくる。確かに、人はお金のためだけに働くのではなく、仕事をする喜び、職業人としての誇りが不可欠であるように思える。
 先月から18年振りに再開したNHKの「プロジェクトX」を観ていると改めてそう感じる。昨日の番組は、過疎が進み財政破綻の一歩手前まで行った隠岐の海士町が舞台だったが、町長が賃金の半分をカットし、管理職もそれに次ぐ引き下げをする中、現状維持とされた一般の職員の賃金も下げるよう組合から「賃下げ要求」があったというエピソードが印象的だった。人生の多くの時間を過ごす職場という場所を輝かせるのは、金銭という報酬ではなく、協力を通じて得られる達成感や仕事に対する自身の誇りなのだと思う。
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