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2024年05月22日00:24

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本棚629『世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理』沼野恭子編集(東京外国語大学出版会)

 東京外国語大学の先生たちが、「食」の観点から世界の多様性を教えてくれる。材料は、牛や豚、鳥といった肉だったり、米や小麦といった穀物だったり、ある程度限られた種類であるのに、料理の手法によって、無限のバリエーションが生まれる不思議さ。

 食べ物にまつわる色々な蘊蓄も楽しい。韓国では雨の日にはお好み焼きの形のジョンを食べるという風習、モンゴルの馬乳酒がカルピスの起源という話、スープが具沢山なのでポーランド語でスープは「飲む」のではく「食べる」と言うことー。

 こうした興味深い話題に加え、言語を教えている先生が多いからか、料理を紹介する文章も普通の料理本と違って、文学的で雅やかだ。例えば、マルセイユの町が築かれた紀元前7世紀まで遡る、南フランス名物のブイヤベースは、「その濃厚な味には何千年の時間を抱えた地中海の青と光が凝縮されている」と表される。また、プルーストの『失われた時を求めて』のマドレーヌの挿話に触れつつ語られる言葉は、多様な世界の料理に共通するものだろう。

 「一つひとつの料理を口に入れるとき、人はその料理が背景に持つ空気や物語を、それと知らずとも、かすかなざわめきとして味わっているのだろう。」

 詩人でもある山崎佳代子さんが紹介するセルビア料理の文章は、他のヨーロッパの料理と違って繊細さはないものの、どっしりと大地に根ざしたようなセルビア料理の魅力を伝えてくれ、どこか哲学的な雰囲気さえ醸している。

 「だが村文化に発するセルビア料理は、食べて生きるという人間の課題に、まっすぐに応えている。鉄の鍋で時間をかけて煮込む肉料理や、 土鍋を竈に入れて肉や野菜を焼いたりする料理など、閉じられた熱の中で生まれた味と、新鮮な肉を炭焼きにするなど、開かれた炎が生み出した味とが溶け合い、大胆で素朴だが味わい深い。」
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