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2023年01月04日20:56

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「死者にこそふさわしいその場所」

読書日記
「死者にこそふさわしいその場所」
吉村萬壱
 作
(文藝春秋)

とある街に生きる人々の日常が狂気を含んでどす黒く変質していく。しだいにすべてが繋がっていく短編連作。

巻頭話を読んだ限りでは不倫の設定で書かれた男と女の話で、トーンは暗いものの狂気をはらんだものではない。ぬるぬるとした感触だが実際あるかもしれない話である。それが2話、3話と進むうちに無人のアパートで終日ドアも窓も開け放して裸で虫にたかられる男や、精神病院で患者を演じる仕事、暴力を受けることを聖なる痛みと感謝する宗教者など、明らかに異常な事態が続出して異世界へ連れ込まれてしまう。

全編通じて人間の晴れやかで健康的な面は現れない。もちろんそれぞれ悩みは抱えているものの通常のそれではなく、なにか得体の知れない不気味な内心と挙動。作者特有のグロテスクで救いようのない世界観にのまれて読んでいると暗澹とした気分になる。以前も感じた通り自分のなかでは暗黒小説の旗手といった印象だ。恐ろしいものだ。
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