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2022年12月26日20:33

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「止島(とめじま)」

読書日記
「止島(とめじま)」
小川国夫
 作
講談社 2008年

戦前から戦後の藤枝を舞台に、土地に生きる人々を描いた遺作短編集。

全編ほとんどをセリフの連続のみで繋いでゆく。これが晩年の小川国夫の到達した表現なのか。地の文が少ないせいか語り手の私を含めて登場人物がいきいきと立ち上がってくる印象だ。そのセリフも多くは1行くらいでごく短く簡潔。素直に作品世界に引き込まれてしまうが、ここにはおおいに作者のうまさがあると思う。

短編のうちいくつかは同じ人物たちの登場する連作で舞台は藤枝。語り手の私は土地ではわりと上層階層の少年で成績は優秀。同学年で学校へ来なくなり歌劇団へ憧れる少女。俥引きの彼女の祖父。そして家族や友人たち。
俥引きの男や少女は当然下働きの階層で、語り手の青年は彼らを使う家柄。往時の地方社会の基本的な成り立ちがよくわかるし、やがて土地を離れて東京の大学へ通う、ごく一部の優秀でめぐまれた立場の青年たちの人生もいろいろなことがある。というより当然だが作者の当時の葛藤が投影されているのだろう。

セリフで表現されるので直接的な内面の描写は少ないが、その分余計に人物が身近に感じられる。これもこの作風ならではの風味というものだ。
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