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2020年02月28日04:14

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話し言葉はやはり、映像と音声で接するのがいちばん理解できる。「討論 三島由紀夫vs.東大全共闘」を読みなおして。

「討論 三島由紀夫vs.東大全共闘」は、新潮社から1969年6月25日に発売されました。A5変型判で180ページほど。定価250円。今なら1000〜1500円はするでしょう。僕も発売当初に買ったのですが、本棚を探すより図書館で借りた方が早いと、借りました。

このパネル・ディスカッションは2時間半に及び、三島由紀夫と全共闘諸氏のやり取りの大半は、今回のドキュメンタリー「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」に収録されていますが、主に全共闘側の発した文言が省略されているように思われます。それは双方が用いた言葉の意味を確かめ合うやりとりなので、むしろドキュメンタリー映画としては、ないほうがすっきりしていたと思います。

とはいえ、50年後に当時の感想を語る関係者や知識人によるインタビューなどは、唐突に挿入されているわけで、しかも編集タイミングなどに、ドキュメンタリー作家としての“政治的立場”が明確にしないから、せいぜいトイレ休憩タイムという意味しかないと思われたのは、前回ドキュメンタリーについて書いたとおりです。

読みなおして明確になったのは、三島由紀夫の考え方でした。彼が用いている“天皇”という単語が、憲法に国民の象徴として規定された天皇のことでも、具体的な人間としての昭和天皇でもなかったことが分かっただけでも僕には有意義でした。ただし、三島がそのような発想になった原点が、実際に昭和天皇と会ったとき“3時間、身動き一つせず座っておられた”という印象に起因するという部分は、まるでトランプ大統領を支持することにした労働者が、“彼は私の眼を見て語ってくれた”というのと同じレベルに思えたことも事実です。

つまり三島由紀夫という人は、“日本人として生まれたから日本人である”という事実を原点として、そこから諸作品を生みだすなり諸発言を行っていたと理解しました。その一貫性は、徹底していたわけです。そして1970年11月25日の自決をもって人生を終えたことから、“潔さ”も感じます。

しかし僕は、死を結論として自ら果てた三島を、なんら評価する気にはなりません。たしかにあの死に接して、自分にはできない羨望を覚えたことは事実でした。しかし何度も繰り返して書いたように、死を結論に置いて物事を考えるというのは矛盾です。三島にとってはそれが美学の中心なのかもしれませんが、矛盾そのものを覆す力はない。

だからこそ、全共闘Cとして表現されている芥正彦がドキュメンタリーのカメラを前に語った、“俺が今生きているということが答えだ”と応じる映像は、たしかに「50年目の真実」だと言えるでしょう。芥正彦は、無責任なインタビューアーの問いかけに対し怒りを含めて、そしてなんらかの戸惑いを感じさせつつ発言していました。

その眼差しは、「50年目の真実」と無責任に商売根性を丸出しにした今回のドキュメンタリー製作者たちへの批判と、自分自身のこの50年への反省に満ちていたと思う。当時を何も知らない(生まれていなかった者もいます)“知識人”たちの感想は、僕には何の意味もありません。むしろ彼らの後付け感想なんか、三島由紀夫という人間への冒涜だとさえ思う。

つまり、それほどこのディスカッションには、三島由紀夫という人間のものの考え方が明確に現れているのでした。“全共闘とは、共に戦える素地がある”という認識は正しいと感じました。全共闘の側には、漠然と三島の考える死というものに感じるところがあったのだと思う。それは三島の死で愕然とした僕にもありました。

しかしチコちゃんは知っています、じゃなかった僕は今知っています。生きるということの意味は生きていないと意味がないということを。なにも僕は、そんな屁理屈で僕の全人生を肯定するつもりはない。もちろん反省して否定するつもりもない。つまり死というものは考える対象ではなく物理的な終点でしかないということです。

三島も全共闘諸氏も、時間の連続性をうんぬんしています。概念としてはぼんやり分かるわけですが、過去・現在・未来という区別と連続性はあくまでも概念でしょう。僕には現在しか存在しない。未来に思いを馳せるとか過去を反芻するのは自由ですが、それはすべて現在の思考活動でしかないと思う訳です。

ということで、また一から言葉を突き合わせてこんな対話を繰り返すのは面倒だし、それを始める時間が僕には残されていないので、とりあえず感想を書き殴ってこの問題は置くことにします。
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