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2020年01月18日19:01

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本棚244『ブリティッシュ&アイリッシュ·マスターピース』柴田元幸編訳(スイッチ·パブリッシング)

 ディケンズ、ワイルド、ジョイスといった綺羅星のようなイギリス·アイルランドの作家たちの短編集。『しあわせな王子』などの作品もあるが、編訳者の柴田元幸らしく幻想譚や怪異譚を中心に編まれている。
 
 シニカルなO·ヘンリーと呼ぶのが相応しい、ラストのどんでん返しが鮮やかなサキの『運命の猟犬』。不死の薬を飲んだ青年の底知れぬ孤独と煩悶を描いたシェリーの『死すべき不死の者』は、手塚治虫の『火の鳥』のような遠大な問いかけが1833年に既になされていたことに驚く。
 最も印象的だったのは、恐ろしさと甘美さが絶妙に混ざり合ったウォルター·デ·ラ·メアの『謎』。近寄ってはいけないと言われた箱に子供たちが一人また一人と誘われ、消えていく。滑らかで流麗な文章がかえって恐怖を倍加させる。

「ウィリアムはつま先立ちで身を乗り出し、箱がすごく大きいのを目にして、眠り姫にキスをしてその静かな眠りから目覚めさせようと、自分も中に入っていった。彫刻を施された蓋が、ゆっくりと、蝶番をきしらせもせずに降りてきた。こうしていまや、アンを読書からそらすものは、時おり漂ってくる、ジェームズとドローシアが立てる騒音だけになった。」

 今から見ると、話の筋がシンプルで結末が予測できるものもあるけれど、それは「古典」であること、現在の数多くの物語の原型であることの証なのだろう。

 大きな絵姿を示してくれる柴田元幸の後書きを読むのはいつも楽しみである。本書でも英米文学を截然と切り分ける鋭さが冴えている。
「米文学は遠心的であり英文学は求心的」「米文学は荒野をめざし英文学は家庭の団欒へ向かう」「米文学は···己の生に限界があることに苛立ち、英文学は人生の限界を諦念とともに受け容れる」
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