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2019年08月29日21:21

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「狂い凧」

読書日記
「狂い凧」
梅崎春生
 作
(講談社文芸文庫)

双子の兄弟栄介と城介。一族のボスとして一家に介入してくる叔父。兄弟の運命はしだいに分かれ、衛生兵として大陸を移動するうち薬物に犯される城介。戦後、栄介は戦死した城介の足跡を追う。語り手は栄介の友人としてつねに同行する私。

読み始めるやいなやその暗いトーンに鬱々とする。
主人公栄介は転倒で背中を病む状態であり、語り手の私に対しても友人ゆえの無遠慮な応対でそれはいいのだが、語り手の私の方は相手の背中の具合や腫瘍に野次馬的に関心を持っており、気の置けない友人関係とはいえさすがに気持ちのわるい感触だ。これがリアリズムといえばそうだ。
二人の人生に少年の頃から関わってくる叔父というのが偉そうなやつで、これも一家の行方を支配する不愉快そのものといった人間。そんなわけでこの小説はままならない現実に左右される日常のくすぶりを書いたようなものだ。

ままならない現実といえば城介の戦中を描いた部分の方が、戦争のままならなさが大きく日常を超えているので、逆に割り切った気持ちで読める。そういう意味では戦記文学は運命に対する諦めが前提となっているので、読むほうも諦めがつくというものだ。
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