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2019年08月25日09:17

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本棚186『イーハトーボゆき軽便鉄道』別役実(白水uブックス)

 宮沢賢治の心象の中に存在した理想郷「イーハトーボ」。本書は40近くの賢治童話を深く掘り下げ、「イーハトーボ」の世界を垣間見せてくれる。

 その読み方が独特なのは、細部に目を向けている点。注意していないと読み飛ばしてしまいそうな細部から、物語全体の解釈につながる深い読みを提示する。
 『セロ弾きのゴーシュ』の空白の六日間の謎からゴーシュの音楽に対する純粋さを、『どんぐりと山猫』の山猫から送られて来なくなった葉書きの謎から山猫と一郎少年との根本的な差異を、『オツベルと象』の悲惨な境遇から助けられた白象の「さびしく」笑う様から永遠に理解されない孤独を読み解く。

 細部の指摘がニッチなものに留まらず、本質を捉えるところに、著者の嗅覚の鋭さを感じる。そして、子どもだけでなく大人の読みにも堪え得る賢治童話の奥深さに驚かされる。おそらく深く意識せずにこれらの細部を書き上げたであろう、賢治の天賦の才にも。
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