小さな奇蹟が束の間舞い降りる。もうこの世にはいない、愛する者との一時の邂逅。苦しい立場に置かれた生者を、あたかも死者はあたたかな衣で優しく包み込むかのよう。そして、生者の心の中に存在した氷が、すっと溶けて無くなってゆく。
この構図は、表題作「鉄道員」のほか、「うらぼんえ」、「角筈にて」など多くの話に通じている。
自分の場所で、自分の仕事、役割を静かに為し遂げる凛とした姿が印象的だった「鉄道員」もよかったが、著者自身の幼い頃の経験をもとにした「角筈にて」は涙がとまらなかった。
酸いも甘いも噛み分けた、深い人生経験から紡ぎ出される情感あふれる物語は、現代のO·ヘンリーのように思えた。
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