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2019年08月11日11:56

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本棚181『アメリカン・マスターピース 古典篇 』柴田元幸編訳(スイッチ·パブリッシング)

 アメリカ文学の「古典」を集めた短編集。編訳者の柴田元幸が、長年愛読した「ザ·ベスト·オブ·ベストの選集」と言うだけあって、ずっしりとした読み応えがある。
 
 心温まるO·ヘンリーの『賢者の贈り物』や、極寒の自然と人との戦いを描くジャック·ロンドンの『火を熾す』などラインナップは多彩で、アメリカ文学の遥かな地平が感じられる。
 「人間の不可解さ」を描いた作品も多い。「そうしない方が好ましいのです」と言い、文書の書写の仕事を拒み、出ていくことも拒み、最後には食べることも生きることさえも拒んだ奇妙な男を描いたメルヴィルの『書写人バートルビー』は、現代の社会にも通じる寓話のようだ。ホーソーンの『ウェイクフィールド』も、旅行に出ると妻に偽り自宅の隣の通りに間借りし、二十年以上を経て自宅の妻の元に戻った夫を描く奇妙な話。
 他方で、推理小説の嚆矢とされるポーの『モルグ街の殺人』では、人の心の全てを読み尽くすかのような天才的な紳士デュパンが現れるが、彼にこうした「人間の不可解さ」を解いてもらいたい気になった。
 今は零落した「本物」の紳士と淑女が、生きるために絵描きのモデルとなり、「偽物」に敗れていくヘンリー·ジェームズの『本物』は、人生の哀感を感じさせ後味は苦いが、深く心に残った。

 それぞれの作者についての編訳者のあとがきもこの本の大きな魅力。読み手を惹きつける愉しい語り口で、作品の本質や文学史における位置づけなどをがっとつかみ取って示してくれる。

「ホーソーン、ポー、メルヴィルらの、世界に意味はあるのか、神は存在するのか、「私」とは何か···といったいかにも大きな問題と向きあった作品が並んでいたのに、トウェインに来ていきなり、鉛の弾を呑まされて跳べなくなった蛙の話が出てくるのだ。いったいここにどんな深遠な意味があるのか···」
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