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2019年01月12日20:05

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現代美術の80年代

歴史的過去というには近く感じてしまう時代の回顧展。


ニュー・ウェイブ
現代美術の80年代
@国立国際美術館 B3
フォト



年始めの鑑賞は地元からスタート。


本展担当者の講演をききました。
企画の経緯、展示をとおして見えてくるものについての
解りやすいお話でした。




〜現代美術の曲がり角 追憶の80年代美術〜
安ぎ正博(国立国際美術館主任研究員)


1980年というと30年以上前、昭和の最後の10年に当ります。
それがどんな時代かというのは個々人の記憶によりますし
自分の当時の年齢にも左右されて、客観的に語ることは難しいでしょう。
その時代に生きていた人が誰もいなくなってこそ客観的に語れるかもしれません。
そこで幾分解りやすくするために70年代と対比させてみましょう。


70年代というのは高度成長が一段落し、オイルショックやロッキード事件があったり
公害問題がおこったりと、戦後の繁栄から負の遺産が現れてきた時代でした。
東京オリンピック、大阪万博の時代から若干足踏みになり
学園紛争も終結して少し暗いイメージもありました。
それに対して80年代は何かきらきらした新しい始まりを期待させました。


たとえば1980年には竹の子族という不思議なものが現れました。
松田聖子や'たのきん'といったアイドルブーム。
一方ではモスクワ五輪のボイコット。
韓国では光州事件がおこりました。
光州事件といえば、そのとき私は高校生だったのですが
担任のスパルタ先生が、君たちはこうして勉強していられるのは
幸せなんだよ、と急に話されて??となったのを覚えています。
考えてみれば先生の世代は社会の理想をとなえて世界を変えようと
運動をおこした世代でした。
70年代安保が連合赤軍事件などを経て収束したあと
その後の若者達は政治思想から離れていきました。
シラケ世代と名付けられニヒリズムが蔓延します。
歌も反戦フォークから四畳半へ、個人の幸福追求へ軸がかわりました。
私が過ごした80年代の大学は個人主義の時代です。
ウォークマンが登場し、住まいも下宿からワンルームマンションへ。
もちろん80年代もその前後ととぎれることなく繋がっています。
しかし一方で時代の特色を見出す事も出来ます。


では美術の世界はどうだったのか。


今回の展示は年代別になっています。
80年代の10年間を2年ずつに区切り、ゆるやかな変化・移り変わりを示しています。


80年当初は70年代の流れが暫く続いていました。
それまで100年続いたモダニズムの時代です。
モダニズムとは。
広辞苑によれば、最新の趣味や流行を追う傾向・
常に新しいものを求める傾向、となっています。
印象派にはじまる100年間は確かに新しいものを追究してきました。
絵画とはなにか、という問いからはじまったのがモダニズムといえます。
不純物をそぎ落としていって最後に残るのはなにか。


そうした取り組みのモダニズムの次に登場したのがポストモダンです。
モダニズム運動が執着した80年代におきたポストモダンでは
モダニズムが捨ててきたものを拾って再構築しました。
具体的な例としては建築における装飾の復権、民族的なものの復権などです。
豊かさを失った現代美術の批判として、絵画においても
ニューペインティングが過去の様式との折衷として現れてきました。


ではその担い手はどのような人達であったか。


中心は昭和30年代生まれの若い人々です。
彼らは1980年には25歳前後、新人類と呼ばれました。
彼らが生まれたのは高度成長期。家庭にテレビが普及し
核家族で受験戦争も経験したもやしっ子。
学園紛争終結後に学生時代を過ごしました。


具体的な作品をみながらキーワードを拾ってみましょう。


【描くことの復権】


◆横尾忠則《ロンドンの4日間》1982
◆佐川晃司《無題》1980
◆文承根《作品》1980
◆辰野登恵子《Work 80P19》1980
◆長沢秀之《ユリーカ》1984


佐川の作品は大画面を大きく平板な色で分け
文の作品はスタンプの反復性など
ストイックで明快です。
それに対して横尾の作品は絵画的。
長沢の作品には身振りが伴う。感覚や偶然も入っている。


【具象の復活】


物の形が再現的に描かれ判別できるものが復活します。
写真の登場により、絵画は記録し伝えるという役割を失いました。
では画家はなにを描いたらよいのか。
モダニズムでは写真には写せない別の世界が追究されました。
ひとつには抽象絵画(世界に存在しないもの)。
ひとつにはシュールレアリスム(夢の中の世界)。


それに対しニューペインティングでは絵画の具象性が復活しています。
ただし昔の絵画の単なる復活ではなく新しい要素があります。


◆山部泰司《Air Plant》1985
◆吉本作次《中断された眠り》1985
フォト



具象によるイメージのたわむれであり、メッセージ性はありません。


【言語芸術のとりこみ】


物語や神話、詩的イメージが登場します。


◆北辻良央《Work RR2》1982
フォト


◆田窪恭治《黄昏の娘たち》1983
◆福嶋敬恭《ENTASIS》1983
◆神山明《僕が空へ行く夜》1987


具体的な物語ではありませんが、物語的なイメージが展開されています。
70年代のストイックな作品群と違い、精神的なイメージを喚起させます。
田窪の作品は宗教的な意匠をまとっていますが正体はよくわからない。
福嶋の作品もギリシャ神話のようなイメージ。
神山の作品はタイトルからしてポエティックだし、これまでになかったスタイル。


【サブカルチャー化するアート】


これまではサブカルチャー(大衆文化)とハイカルチャーははっきり分かれていました。
そもそもサブカルチャーは政治的色合いをもってカウンターカルチャーとして
登場したのです。それが70年代に政治色が薄れ、洗練され、
ついには80年代にハイカルチャーと合体しました。


◆日比野克彦《BJ MACKEY》1982
◆松尾直樹《Spacing Flying Monster》1983
◆松原浩大《Pine Tree Instlation、アトム》1983
◆荒敦子《ドレス図》1986
◆福田美蘭《緑の巨人》1989


日比野の作品は段ポールだし
松尾の作品はモスラだし
松原はアトム
荒はミッキーマウス。
(荒さんのミッキーは印象派の大家がドレスを着た
ミニーマウスを描けばかくや、と思わせる掻き込みよう)
こうしたシミュレーショニスムやサンプリングアートは
90年代に繋がっていきます。


最後に様々なジャンルにおける80年代の動きをみましょう。


【現代陶芸からクレイアートへ】


陶芸の世界では伝統工芸から切り離された
「オブジェ焼き」なるものが登場、つきはなされたスタイルの作品が
作られました。


◆田嶋悦子《Hip Garden Flower》1987


「焼く」プロセスを使った現代アートですね。
素材としての土、方法としての焼き物にすぎない。


【版画表現の多様化と大型化】


◆吉原英里《M氏の部屋》1986


1つのメディアとしての版画、版画を使った現代アート。
本展ではあえて1作品しか展示していません。
この時代の版画をかたればそれだけで1つの展覧会になってしまいますので。


もはや版画は複数芸術ではありません。
会場全体を使ったスケールのインスタレーション作品も多い。
80年代は版画ブームだったともいえますね。


◇出原司《ひとつでたくさん》1989
これは本館が所蔵する最大の版画作品です。
今回は出ていませんが横幅12m以上あります。


【現代アートとしての写真】


◆森村泰昌《肖像(ゴッホ)》1985


メークをして名画の中に自分が入り込んだものを写す。
森村さんが出てきたのは衝撃でしたね。
これはもはや写真ではないですね。


【手仕事の復活】


もともとアーティストはものを作る職人から差別化して出てきましたが
逆戻りするような動きがありました。


◆北山善夫《飴でもどうかね》1987
◆川島慶樹《For Crows and Roses》1985


北山の作品は竹細工の工芸的日本的なものを感じさせ
川島の作品は職人的とさえいえる。
しかしできたものは従来の工芸作品とは明らかに違います。


【インスタレーションの隆盛】


◇杉山知子《two minds,one heart》1985


これは本展には出ていません。
インスタレーションは場所をとるんですね。
まあ日本のギャラリー空間はインスタレーション向きだと言われます。


インスタレーションは時間限定、期間限定のアートです。
展示が終われば残らない。
そこからさらに今は場所も限定されたサイトスペシフィックな展示になっている。
アースワークとかハプニングとか。
80年代はそこまでいかない。


本展でいうならこれらがインスタレーション的でしょうか。
山本の作品は平面/立体という境界を越えている。


◆山本富章《無題》1986
◆福嶋敬恭《ENTASIS》1983


今回は65作家の作品を展示していますが、「抜けた人」の存在も
改めて感じさせられています。


【質疑応答】


講演のあとには質問コーナーがありました。


問い。
本展は時系列展示だがそれ以外の切り口はないか。
答え。
お話してきたようなキーワード毎の展示も当初は考えました。
しかし各作家が制作過程でそれを意識していたとは思えません。
そこでニュートラルな感じにして、解釈を観るひとにゆだねてみました。


1月20日まで。




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B2では所蔵作品の関連展示
80年代の時代精神から


が展開されていました。
◆アンセルム・キーファー《星空》
◆サイトゥオンブリー《版画集 博物誌 きのこ》10点


◆杉本博《バルト海 リューゲン島》
「海景」は落とした照明のなかにありました。

http://www.nmao.go.jp/exhibition/2018/1980.html
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