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2018年08月14日07:32

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取るか寄るか

 「年を取った」とは言いますが「年を(が)寄った」とはあまり言いません。なのに「年寄り」とは言いますが、「年取り」とはあまり言いません(私が持っている辞書では「年寄り」は「年を取った人」「武士、村、相撲でのエラい人」、「年取り」は「年を取ること」とあります)。「年齢」において「取る」と「寄る」の差はどこにあるのでしょう? 「取る」のはどこから取っているのでしょう? 「寄る」のはどこに寄っているのでしょう?

【ただいま読書中】『紙の動物園』ケン・リュウ 著、 古澤嘉通 編訳、 早川書房(ハヤカワSFシリーズ)、2015年、1500円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00YGIKMNW/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B00YGIKMNW&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=476c9cb3718cceb28956a6813131c861
 中国系のアメリカ人SF作家で優れた作品を書く、と言えば私がすぐ想起するのはテッド・チャンです。ところが彼は寡作で次の作品がなかなか出てこないのですが、その“隙間"を埋めてくれる作家が出てきた、というか、私の中では下手するとテッド・チャンに取って代わってしまうかもしれない作家が、本書のケン・リュウです。

目次:「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「結縄」「太平洋横断海底トンネル小史」「潮汐」「選抜宇宙種族の本づくり習性」「心智五行」「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「円弧」「波」「1ビットのエラー」「愛のアルゴリズム」「文字占い師」「良い狩りを」

 「紙の動物園」……ヒューゴー賞・ネピュラ賞・世界幻想文学賞の短編賞を軒並み受賞、というとんでもない作品です。写真結婚でアメリカに買われていった中国人の娘が、そこで産んだ子供に見せた小さな折り紙の魔法。「魔法の国」ではなくて「現代アメリカ」が舞台だからこそ成立したファンタジーです。「大地」(パール・バック)を下敷きにした部分もありますが、親子の情愛・中国とアメリカ(文化の衝突)・貧困問題など様々な要素がさりげなく慎ましやかに(東洋的に)仕込まれていて、複雑な読後感をもたらしてくれます。
 「もののあはれ」……これもヒューゴー賞短編賞受賞作です。小惑星の衝突で地球は滅亡。日本人として唯一の生き残りとなった大翔(ひろと)は、乙女座61番星を目指す脱出船に乗ることができました。大翔は8歳の時に故郷を失いましたが、自分が「日本文化」の最後の担い手であることを意識すると同時に、自分が日本文化をあまりに知らないことにもプレッシャーを感じています。ここで著者は「傘」や「翔」という「漢字自体」をまるでさし絵のように読者に提示して「東洋文化の雰囲気」を伝えようとします。そして、大翔が修理をしようとする太陽帆は「碁盤」として大翔の内部でイメージ処理されます。碁石には「アメリカ的なヒーロー」はいません。しかし、実は彼らは「ヒーロー」なのです。中国系アメリカ人によって「もののあはれ」の新しい解釈を教えてもらうことになるとは、日本人としてはちょっと悔しい思いです。「日本人作家」ももうちょっと頑張ってこれを越える作品を生み出して欲しいな。
 「潮汐」……「ラプンツェル」のイメージが重なる作品ですが、これを読むと「ロシュの限界が邪魔」と感じます。もちろん著者はそんなものはあっさり無視してくれて、破天荒な前提がロマンチックな童話としてきちんと成立してしまいます。


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