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2018年08月02日08:07

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見えない自画像

 私が他人の赤ちゃんに近づいて泣かれると「眼鏡が恐いのかな」なんて言われたことがあります。自分とは異質なものを感じた、ということでしょうか。しかし赤ちゃんはどうやって「自分が眼鏡をかけていないこと」を自覚できたのでしょう?

【ただいま読書中】『創造の源流 ──社会を変えるイノベーション 2015年版』豊橋技術科学大学 編、日経BPコンサルティング、2015年、1500円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4864430837/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4864430837&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=3e94d81e6b0f400a1548907880a656cc
 「垂直磁気記録」「世界最小の無線認識IC」「ミニマルエンジニアリング」「ハイブリッドカー」「光ファイバー通信技術」など、全部で9つの「講義」が集められた本ですが、どれも学外からその分野のトップクラスの人を呼んできて講義と質疑応答をしている、という、実にうらやましい企画です。私も大学でそのような特別講義を聴いた覚えがありますが、やはり「トップクラスの人の直接の言葉」には特別な作用があるんですよね。
 磁気記録は、テープの表面に塗った媒体をヘッドで磁化しておこなわれていました。岩崎俊一さんの教室では1980年ころ表面だけの水平磁気記録ではなくて媒体の厚みを使って「垂直」に磁化する試みを始めました。目的は高密度の記録。実用化が始まったのが2006年ですから、ずいぶん時間がかかりましたが、媒体もヘッドも記録方式も何もかも新しく作り上げるのですから、時間と労力は必要だったわけです。ここで岩崎さんは「垂直磁気記録は、はじめは『科学』だったが、のちに『技術』になった」と述べています。そして2006年から3〜4年で、ハードディスクの磁気記録方式は100%が「垂直」に置き換わりました。劇的な変化です。私も、小型・高速・大容量・省電力のハードディスクの恩恵をこうむった一人なので、ありがたい技術です。また、ハードディスクを買わない人でも、クラウドを利用している人はやはり恩恵をこうむっていることになります。なお、岩崎さんは「優れた発明や技術は、実用化されるまでに20年以上かかる」という「法則」も発見しています。なるほど、「垂直磁気記録」が実用化されるまでに四半世紀かかったのは別におかしなことではなかったんですね。
 「紙に漉き込める小さなICチップ(ミューチップ)」の話も非常に興味深いものでした。チップ自体の原価はわずか1円ですがそれにアンテナをつけて紙に漉き込むコストが50円。けっこうな値段になってしまいます。そこで「(バーコードではなくて)ミューチップでなければならない分野」を開拓する必要がありますが、「愛・地球博の入場券」に組み入れたらなんとそれを洗濯してしまった人がいて、ところがそれでもちゃんと機能したことから「制服(航空会社の職員へのなりすましの防止)」「緊急手術のガーゼ(体内への置き忘れの防止)」などの分野が開発されていったのだそうです。「失敗」は成功の母なんですね。ただ「本当に失敗」の例もここでは紹介されます。良さそうなアイデアでも実際にやろうとすると難しい条件が見つかってしまうことは良くあるようです。だけどその「失敗」もまた何かの糧になるはず。しかしこの講義には「技術の日立」を「技術だけの日立」と聞いていた、という苦い言葉が登場します。お客のことを忘れた企業の独りよがりだ、と。すると「目の付け所がシャープでしょ」は「目の付け所がシャープなだけでしょ」になっちゃうのかな。
 面白いのは、講義を聴いた大学院生たちとの質疑応答も収載されていることです。
 私が大学院に社会人入学をしたとき、最新の知見についての講義を受けたのがとても嬉しかったのを思い出しました。こういった“講義"は定期的に受けたいものです。いくつになっても自分が成長していると感じられるのは嬉しいことですから。


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