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2018年07月22日07:35

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プーシキン美術館展

金・土曜日の夜間開館中（17時～２１時）は
一部作品を除いて（ピカソ、シャルヴァージュ等）
写真の撮影ができます。

プーシキン美術館展
～旅するフランス風景画～
＠国立国際美術館

プーシキン美術館といえば、10万点を収蔵する
世界最大級の美術館ですが今回はその中から
17～20世紀のフランス風景画に特化した６５点が来日しています。

４月から３ヶ月の東京都美術館の展示を終えて
ようやく関西に巡回してきました。

目玉①は
◆草上の昼食（クロード・モネ）
モネ２６歳、印象派前の大作です。
完成作は部分しか残存せず、オルセーの所蔵。
来日しているのは下書きに加筆して完成させた作品です。
影響をうけたヴァトー《シテー島の巡礼》では右端にヴィーナスが描かれていますが
本作ではその代わりに樹の幹に射ぬかれたハートマークが彫られているというのがツボでした。

ちなみにモネの作品は、積藁・睡蓮・ライラックと他に３点出ています。

目玉②は
◆馬を襲うジャガー（アンリ・ルソー）

モネとこの作品がメインビジュアルなので集客の目玉なのかと思うのですが

◆セザンヌの《サント=ヴィクトワール山》が２点出ていて　コレクターによる好みの違いがみられたり

◆アンリ・マティス初期の代表作《ブーローニュの森》の　らしくない色遣い

◆ルイジ・ロワール《パリ環状鉄道の煙》

(とても大きな作品です)

などを興味深くみました。

実は展覧会の冒頭に掲げられた
◆エウロペの略奪（クロード・ロラン）を観た瞬間に　懐かしい風景に似ている！と思ってしまって呆然。　いや実際にはそこには家畜も神々もいないのですが。。。

初日でしたので副館長のバカノワさんの講演を聴きました。
（フライヤーによる告知と演題がかわっています。
東京では館長の講演だったそうですね。
内容はどうだったのでしょう）
ご挨拶とともに
「今回来日して天然の暑さというのはいかなるものかわかりました」
いや暑かったですからね～

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『シチューキンとモロゾフ
国立西洋近代美術館コレクション』
イリーナ・バカノワ（プーシキン美術館副館長）

【風景画の変遷】

この展覧会の副題はロシア語では
～フランス風景画の展開（エボリューション）～
となっています。つまり進化をみせる展覧会です。

そもそもひとはどのように「風景」を受け止めるのでしょう。
ロシア人なら、まず広大な平野、森、川。
日本人なら水の風景、山、海原でしょうか。
これまでの人生に密着したその人なりのみかたがあるでしょう。
ただ共通するのは「叙情的なもの」であり今日では人気のテーマです。

ロシア人は17・18世紀から風景画が好きで収集していました。
しかしフランスでは一段劣ったジャンルとされていました。
18世紀の終わりでさえイタリアの風景に影響されたものでした。

《エウロペの略奪》でもギリシャ神話がテーマであり、風景は背景にすぎません。
しかし風景画は次第に日常生活を描くものとなりました。
神話そのものの読みかたがかわったとも
人の一生がかわったともいえます。

モネの《草上の昼食》のはなしをしましょう。

国立国際美術館のこの絵の展示はいいですね。
というのは作品の向かい側にエドゥワール・マネの《草上の昼食》の資料が展示されているからです。

モネの作品は世間の反感もかわず批判をあびない作品ですが
マネの作品は発表と同時にスキャンダルになりました。
ヌードの女性が描かれており、それは明らかに高級娼婦です。
実際には存在していたことですが、そんなことはありえないように批判され、
サロン展出品も禁止されました。
ヌードの描き方ものっぺりとしていて
あたかもスポットライトをあてて注目してほしいといわんばかりだったからです。

それに対してモネの作品は全員服を着ていますし
華やかです。人物の関係も気のおけない親しさにあふれ、いきいきとしている。
木漏れびの自然光がさし、動きのないマネと真逆。
モネは印象派の父とよばれますが「印象派」の誕生には６年後の《印象・日の出》をまつことになります。

【セルゲイ・イワノヴィッチ・シチューキン】
（1854－1936）

プーシキン美術館にとって大切な二人のコレクターの話をしましょう。
一人目はシチューキン。繊維業で財をなした実業家です。

プーシキンのシチューキンコレクション TOP５
◆マティス《金魚》
◆ドガ《青い踊り子たち》
◆ゴッホ《囚人の運動》
◆ゴーギャン《果実の収穫》
◆モネ《草上の昼食》

セザンヌも５点ゴーギャンも９点あります。
シチューキンのコレクションら300点余ですがいずれもそれを看板に展覧会ができるほど質の高いものです。

３人の兄弟それぞれが異なる審美眼を持っており、
弟ドミトリーがオールドマスター
もうひとりの弟ピョートルが古代作品を収集したのに対し
セルゲイは時代の先端をゆく新しいものを好みました。印象派でさえ1904年以降は買っていません。

その収集態度としてはとにかく、買う。
そして作品を理解するには、１年以上自邸に飾り毎日眺めなくてはいけない、というものでした。

コレクターがなにを集めるかは、そのとき人生において何が大切かによるものです。
シチューキンははじめ印象派のものをあつめていましたが晩年は人生の困難に直面します。
そんな彼が尊厳をもって生き抜く事ができたのは身近に美術作品があったからなのです。
なにがあったのか。

事業は成功しコレクターとしての人生も充実、家庭も円満という
順風満帆だったシチューキンでしたが
1906年、息子が家出し行方不明になります。
その死が確認されたのはシチューキンがマティスのアトリエを訪問した日でした。
以後、彼はマティスの作品を心の慰めとします。

さらに1910年、もう一人の息子が自殺すると
シチューキンは再びパリへゆきピカソのアトリエを訪ねました。

本展にもでているピカソの《庭の家ー小屋と木々》をごらんください。
下からみた塀、上からみた家、まがりくねって折れた形態は現実とはどこか違う別の人生を感じさせます。
彼はこみあった状況に正しさをもたらすのは芸術だけだと考えました。

彼は本展に出品している《ライラック》をモネから直接買っています。
ピカソと友人としてのつながりももちました。
1911年にはマティスがモスクワを訪れ、シチューキン邸のバラの間の装飾を指揮しています。

【イワン・アブラモヴィチ・モロゾフ】
（1871-1921）

それとまったく違う収集態度であったのがモロゾフです。
゛即決のシチューキン゛に対して、モロゾフはサロンに通い、ディーラーの話も聞き示唆もうけました。
たとえばサロンでみた作品は、１年たってもまだ心に残っていたら買う。熟考するのです。
アーティストに援助も行いましたし
生涯印象派を収集しました。

プーシキンのモロゾフコレクションベスト５
◆ピカソ《玉乗りの少女》
◆ドニ《ポリュフェモス》
◆ルノワール《ジャンヌ・サマリーの肖像》
◆ドラン《ヨット》
◆ピカソ《ヴォラールの肖像》

セザンヌも９点ゴーギャンも５点あります。

モロゾフとシチューキンは、どちらも
セザンヌの《サント=ヴィクトワール山》
を購入していますが印象のちがうものです。
２つとも本展に出ていますのでごらんください。

また、ゴーギャン《マタモエ、孔雀のいる風景》
には画面に火が描かれています。
火は神に犠牲をささげるために焚かれるもの、
全てを焼き尽くすもの。
よってこの絵は単なる異国情緒の絵ではありません。
モロゾフは未知なものを引き出す作品と解釈してこれを購入しました。

【国立西洋近代美術館】
（1923-1948）

シチューキンとモロゾフ、ふたりのコレクションは
1917年にロシア革命で国有化されてしまいました。

シチューキンは国外に亡命し、1936年に死亡。
モロゾフはコレクションの管理者としてしばらく留まりましたが 1921年に亡くなり近年までお墓の所在も不明でした。

二人のコレクションはそれぞれ第一、第二とされ
国立西洋近代美術館として統合すると世界初の近代美術館の収蔵品となりました。

しかしその後も過酷な時代は続きます。
1941年に第二次大戦が勃発すると、作品はシベリアへ疎開しました。
1945年終戦でソ連は戦勝国となりますがリストの見直しが行われます。
鉄のカーテンがおりかかっている時でした。
結果「ブルジョワ的なものは望ましくない」として
1948年にスターリンによって美術館の閉館が決定されました。
美術館として弾圧された唯一の例となってしまったのです。

現在二人のコレクションはモスクワのプーシキン美術館と
サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に分かれて収蔵されています。
アーカイブライブラリーは幸いプーシキンにあります。
プーシキンで印象派の展示が行われたのは１０年後でした。
ですからこうしてシチューキンのコレクション(13点)とモロゾフのコレクション(19点)が同時に展示されるのは嬉しい事です。

ただし全ての作品をもってくることはできませんので是非みなさまモスクワのプーシキン美術館にいらっしゃってください。
プーシキン美術館では今年の９月３日から『江戸の日本画展』を開催します。
これもとてもよい展覧会になりそうで楽しみにしております。

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【質疑応答】

問い。
プーシキン美術館という名前の由来は

答え。
アレキサンドル・プーシキン(1799-1837)という詩人の名前からとっています。
美術館はイワン・ツェレタレフ教授によって大学付属美術館として創設されましたが
1937年にプーシキンが決闘で亡くなって100年のメモリアルイヤーにその名前を冠するようになりました。
ツェタレフの娘・マリーナは亡命していますし
マリーナの夫は反政府将校として逮捕・銃殺されていますので創設者の名前をつけることができなかったのです。
美しく厳かな名前だと思っております。
名前を変えるべきだという議論も過去にありましたが教授の遺族も望みませんでした。
ただし教授の胸像はございますし
ただいま建設中の総合芸術センターで、あるものに
「ツェレタレフ記念」、という名前がつけられることになっております。

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展覧会は10月14日まで。 http://pushkin2018.jp/

B2収蔵品展のコンテンポラリー作品にもいいものが出ています。

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