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2018年07月18日06:19

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「一」の違い

 「天使」から一本だけ線を抜いたら「大使」になります。

【ただいま読書中】『外交官の舌と胃袋 ──大使料理人がみた食欲・権力欲』西村ミツル 著、 講談社、2002年、1500円(税別)
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 著者はかつて公邸料理人でした。大使館で「大使と家族の食事」と「大使館に招いた要人のための食事」を作ることが仕事です。大使館での食事会は、つまりは情報交換の場なので、変な料理は出せませんし、宗教上のタブーや好みなど考慮するべき要素が多く、さらにインフラの問題(停電が多いとか水道からきれいな水が出ないとか)や食材の調達などの問題もあります。私が素朴に驚いたのは、公邸料理人は大使の私的な使用人扱いで、外務省は一箇月に13万円の“補助"を出すだけ、ということ。各国要人の舌と胃袋を満足させて大使が動きやすくするために料理人の腕は大切だと思うのですが、そういった腕の良い料理人が13万円の月給で雇えると? もちろん無理なので、各大使は自腹を切ることになります。外務省って、やたらと大盤振る舞いをするくせに、大切な部分ではけちっているんですね。
 過去の有名な公邸料理人が4人紹介されます。村上信夫、片岡衛、熊谷喜八、三國清三……あら、うち2人は名前を知っています。どの人も公邸料理人から“次のステージ"へステップアップしていきました。大使館は料理人を鍛える場でもあったようです。
 著者は3人の大使に仕えました。幸いどの人も良い人だったのですが、そうではない大使もいるようです(著者は口を濁しますが)。赴任したのは、ブルネイとベトナム。
 「大使」は「キャリア外交官にとっては上がりのポスト」だそうです。面白いのは、国内(北海道、大阪、沖縄)にも「日本の大使」がいること。知ってました? 大使館業務で一番多いのは「便宜供与」です。日本からやって来るVIP(首相、議員、社長、芸術家、ジャーナリストなど)に旅行代理店とレストランかわりの機能を果たす。著者はあきれて「これは『外交』ではなくて『内交』だ」なんて言っています。著者がベトナムにいた98年度に大使公邸での便宜供与の設宴は70件でその年度の設宴の5割以上、しかもその経費は外交報償費(機密費)でまかなわれていたそうです。ベトナムでそれなら、欧米の人気国だったら桁違いに多い設宴があるでしょう。つまり税金で贅沢三昧をしている人たちが日本にはたくさんいるわけです。「やめろ」とは言いませんが「情報を公開しろ」くらいは言いたいな。
 大使館には「素晴らしい人間」もいますが、「クソのような人間」もたんといました。特に上級職にそんな人間が多いのが、著者には不思議だったそうです。エリートなのに、と。私に言わせれば、子供のころから「エリートコース」だからこそそんな(上にはぺこぺこ、下にはパワハラの嵐で威張り散らす)クソのような人間になるだけのことなのですが。
 大使館に派遣される民間の専門調査員や派遣員は、数年経つと筋金入りの「アンチ外務省」になる人が多いそうです。外務省も、わざわざ金と手間をかけて“アンチ"を大量生産しなくても良いのに、なんて思いますが、官僚には別の思惑があるのでしょう。
 著者は公邸料理人をしている最中に漫画の原作者となり、結局料理人そのものを辞めて筆一本で生きることにしました。著者が原作を書いた「大使閣下の料理人」は未読ですが、そのうちに読んでみます。


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