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2018年07月16日07:44

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3分間で食事

 もしかして「食事」とは「3分待てばできるもの」(「キューピー三分間クッキング」や「カップラーメン」など)と思い込んでいる人が、現代日本ではすでに過半数になっています?

【ただいま読書中】『走れ!タカハシ』村上龍 著、 講談社、1986年、950円
https://www.amazon.co.jp/gp/product/406184444X/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=406184444X&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=287d3a03dd4526d683d8978327d51ba6
 それまでも「すごい野球選手」はいました。私がそのプレイを覚えているのは、王・長島・野村・張本……だけど広島カープの遊撃手高橋慶彦は「タカハシヨシヒコ」とカタカナで呼びたくなる「それまでとは異質の選手」でした。単なる根性とか天才とかではなくて「プレイの質」がスピーディーで切れが良い「近代的」な選手だったのです。カープからライオンズに移った永射投手からは「サウスポー」という曲が生まれましたが、タカハシから生まれたのが本書です。
 短編が11収載されていますが、目次を見て私は驚きます。どの作品もタイトルはその作品の「最初の一文」です。ずいぶんゆるいなあ。
 「17歳」「セックス」で最初の2短編がまとめられているのでこの路線でずっと行くのか、とちょっとげんなりしてくると、三編目で「女がカープファン」という共通点があることに気づきます。さらに「疾走感のある文体」もまた、共通点です。守備でも走塁でもタカハシが見せたあの疾走感。
 「カウンターで飲んでいる時、いつも思うのだが、バーテンダーというのは何と崇高な職業なのだろう」もまた「セックス」「女がカープファン」なのですが「疾走感」が半端ではありません。ただ、「タカハシ」の疾走感と言うよりも小動物の疾走感。主人公が社会人(スポーツマンじゃなくてテレビ制作会社のディレクター)だから仕方ないかな。でも、これもこれで面白い。タカハシがすごく良い人なのも気に入りました。
 著者は好き放題をします。たんに「走る」だけではなくて、タカハシ(というかヨシヒコ)はテニスをしたかと思うと、別の作品ではサヨナラエラーをします。しかしそのどちらも、別のある人にとっては“祝福"となるのです。そしてそのたびに作品の登場人物は「走れ!タカハシ」と叫びます。読者もだんだん巻き込まれて、思わず一緒に叫びたくなります。自分の人生をタカハシに託しているかのように。走れない自分の代わりに走ってくれ、と。
 タカハシヨシヒコが疾走し、カラオケがレーザーディスクだった時代、そう、そんな時代もありました。なんだか懐かしいなあ。本書出版当時は“時代と一緒に寝ている作品"だったはずなんですけどね。
 そしてラストの「オレは十七歳だが、とても忙しい、その理由は、しっかり者だからだ」でまた「十七歳」が登場しますが、おやおやお、こんどは「セックス」が登場しません。そのかわりのように現れる「おじいちゃん」が……わはははは。いや、これは面白い。私は「おじいちゃん」と「十七歳」の会話を声を出して笑いながら読む羽目になってしまいました。この「盗塁と牽制」のような会話の素晴らしさ。そしてシメはもちろん……「走れ!タカハシ」。


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