現在年金生活に入っている人たちは、若い頃には「親孝行をするのが当然だ」と言われ続け、今は「老人が多すぎて困る」と若い世代に言われています。もっとも、言われただけで実際に親孝行を熱心にしていたかどうかは、本人にしかわかりませんが。
【ただいま読書中】『20世紀の幽霊たち』ジョー・ヒル 著、 白石朗 他 訳、 小学館文庫、2008年、933円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4094081348/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4094081348&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=82814e52f032b8e8243497bf5d736caa
目次「謝辞」「年間ホラー傑作選」「二十世紀の幽霊」「ポップ・アート」「蝗の歌をきくがよい」「アブラハムの息子たち」「うちよりここのほうが」「黒電話」「挟殺」「マント」「末期の吐息」「死樹」「寡婦の朝食」「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」「おとうさんの仮面」「自発的入院」「救われしもの」「黒電話(削除部分)」「収録作品についてのノート」
この前「ポップ・アート」でびっくりさせられた作者の、デビュー作です。しかし、短編集でデビューするとは(アメリカでは短編は「売れないもの」とされているので買ってもらえない、と短編を得意とする多くの作家が自著でぼやいているので)大した作家だ、と感じます。
最初の「謝辞」は、たしかに型どおりの「謝辞」として始まるのですが、すでにここに「作品」が隠されています。いやもう、びっくりしましたよ。
「二十世紀の幽霊」は、映画の「二十世紀フォックス」のもじりかな? 一見映画館での幽霊譚なんですが、映画に対する混じりっけ無しの愛情が作品の底流となっています。
「蝗の歌をきくがよい」は、少年がベッドで目ざめたら自分が巨大な虫になっているのを発見するところから始まります。ただしカフカの「変身」とは全然ちがって、もっと暴力的ででもどこかにカタルシスを秘めた展開となっています。「虫」といってもいろいろです。「虫を食べる」シーンで気持ち悪くなって読むのをやめる人が多いかもしれませんが、できたらその先まで……あ「○(伏せ字です)を食べる」シーンでやっぱり断念する人が多いかな?
「自発的入院」は、淡々とした一人語りですが、そこに登場するのは「多数の段ボール箱で組み立てられた“要塞"」です。語り手の弟が地下室いっぱいに作り上げた創作物ですが、それがどうしたことか、クラインの壺のようなものに化けてしまったのです。ただ、本当に恐いのは「要塞」ではなくて、語り手の心そのものが同じように「クラインの壺(のようなもの)」になってしまっていることでしょう。
著者の心の中には実にバラエティーに富んだ様々なものが潜んでいるようですが、著者の心は幸い「クラインの壺」ではなかったようで、その「様々なもの」が「創作物」として外部に届くことができました。ホラーが苦手な人も、本書だったら読める(あるいは気に入る)作品に出会えるかもしれません。単なる悪趣味・下劣・グロテスクにならないように、著者の心には一本の「線」が明確に引かれているように私には感じられました。
ログインしてコメントを確認・投稿する