mixiユーザー(id:235184)

2017年09月05日07:08

130 view

笑えない、が示すもの

 その人の心が健康ではない状態になると、自分が笑えなくなります。
 その人のセンスと知性が不十分だと、まわりの皆を笑わせることができなくなります。

【ただいま読書中】『ディープ・スロート ──大統領を葬った男』ボブ・ウッドワード 著、 伏見威蕃 訳、 文藝春秋、2005年、1762円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4163675809/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4163675809&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=eb1e80d8573d8064173d7b402d106a4d
 著者はかつて海軍大尉でしたが、除隊間近の時、書類を届けに来たホワイトハウスで待ち時間を潰していたとき、まったく偶然に、FBIのフェルトと出会います。初対面なのに、父親と同年齢のフェルトに著者は将来の不安を打ち明け、強引に相談に乗ってもらいます。そこから著者とフェルト(FBIの実質的なナンバーツーの副長官)とのプライベートな「緣」ができました。著者は結局ワシントン・ポスト紙に就職。ほとんど同時に、ウォーターゲート事件が始まります。
 フェルトは、ホワイトハウスのあまりに強引な隠蔽工作とFBIへの圧力に怒っていました。そして、著者にFBIの資料を流すのではなくて、著者らが他の情報源から入手した情報の真偽の鑑定や根拠の位置を教え、記事を膨らませる方向に誘導する、という形で協力をします。その手段は、防諜の基本通り、まるで外国でのスパイの行動とほとんど同じ手順を踏んでいました。
 ニクソン陣営は、違法な政治献金を受け取り、大統領選挙で民主党候補に対しての選挙妨害をし、それを捜査するFBIに対してはホワイトハウス(と司法省)として捜査を妨害しもみ消し工作に奔走していました。さらにニクソン陣営は、ポスト社内の“ディープ・スロート”から、FBIの“ディープ・スロート”がフェルトであることを知ります。このときのニクソンとホールドマン首席補佐官との会話が秘密録音テープに残っています。さらにCIAを使ってFBIの捜査を妨害しようとさえしました。
 ワシントン・ポストは勇み足で根拠を欠いた記事を書いてしまい、ニクソン陣営は大喜びをします。しかし、事態は少しずつですが進展していました。ついに事件は“爆発”します。
 取材の過酷さや事件の進展そのものについては、著者らの『大統領の陰謀』などに詳しいのですが、著者は“宴の後”になってから、フェルトの動機などについてやっと落ちついて考えることができるようになりました。
 フェルトは、ディープ・スロート疑惑とは別に、FBI事件のことで訴えられていました。ニクソンまでが証人としてやって来る事件です。そのためフェルトはひどく消耗します。さらに「ディープ・スロートは誰だ」と多くの人が探し続けました。それへの対応で、著者もフェルトも疲れてしまいます。「情報源は秘匿する」と宣言しているのに、それでも著者の所にしつこく質問をしに来る人々がいるのは、一体なぜなんでしょうねえ。私だったらまず周辺を取材して今さら否定しきれないくらいの根拠を確保してから質問しに行きますけれど。それが(著者らが開発したという)「調査報道」のやり方でしょう?
 事件の進展に伴って、二人の仲はけっこう険悪となっていたため、決定的な破局を避けたいという著者の気後れから、二人はずいぶん長い間疎遠となっていました。しかしついに著者が大決心をしてフェルトに会に行ったとき、フェルトは認知症となり、記憶の多くはぼんやりと霞がかかっていました。この時の二人のやり取りは、とても暖かいものです。単なる「新聞記者と秘密の情報提供者」という関係を越えた人間としての信頼関係が二人の間にあったことがわかります。だから著者はディープ・スロートの正体公表のためには、フェルトの認可が必要だと考えていました。しかしフェルトはすでに認知症です。レーガンが認知症になってからイラン・コントラ事件の独立検察官がレーガンの宣誓供述書を強硬に要求したことがありますが、それを読んで著者は悲しい思いをしました。そういった辛い思いをフェルトにはさせたくない、と著者はあらためて思います。しかし、フェルトは著者のことを覚えていました。あとはフェルトが真実の忠誠を誓っていたフーヴァーFBI長官のことも。著者はフーヴァー並みの扱いだったわけです。相談をした弁護士が著者に課した条件は「自主的」「全面的」「法的に適切」。さらに、承諾書には、本人・家族・本人の弁護士・かかりつけの医者、すべてに立ち会ってもらっての署名。さすがアメリカ、と私は呟きます。
 ただ、著者は非常に準備が良い性格のようで、フェルトの許諾が取れる前からすでに本書の準備をほとんど終えていました。記憶は変質したり消滅しますが、記録は残るからでしょう。
 本書の最後に、ウォーターゲート事件でウッドワードとコンビを組んでいたバーンスタインも寄稿していますが、彼にとってのディープ・スロートの位置づけはウッドワードとはずいぶん違ったものであることもわかります。世界を見る目の数だけ、違う世界が存在しているのかもしれません。


1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年09月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930