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2017年08月25日07:01

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秋の期待

 最近時々空に刷毛で掃いたような雲がかかっていることがあります。カンカンに温められた地上からの上昇気流とは別に、高空では横向きの気流がちゃんと吹いていて秋の雲の準備をしているんだな、と私は思っています。単に暑さから逃避して、早く秋が来て欲しいと思い詰めているだけなのかもしれませんが。

【ただいま読書中】『水先案内人 ──瀬戸内海の船を守るものたち』森隆行 著、 晃洋書房、2017年、2000円(税別)
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 水先案内人(水先人、パイロット、シーパイロット)の仕事は、あまり世間に知られていません。著者は海運会社に30年奉職していましたが、それでも水先案内人について詳しいことを知りませんでした。そこで、この職業について社会に認知してもらおうと本書を執筆したそうです。
 本書で扱われるのは「内海水先区(=瀬戸内海)」。島が多く海峡は狭く潮流は複雑で時々刻々変化するという難しい海です。特に来島海峡は、それでなくても狭い難所なのですが、潮の流れによって「船は右側通行」という基本ルールが変化する、という世界でここだけの複雑な航路です。船長はパイロットに「命を預ける」覚悟で操船をゆだねますが、かつては村上水軍に案内を頼む船長たちがいたのではないか、と著者は過去のことを思っています。
 案内をする船に乗り組む水先人と一緒に、読者は船に乗せられます。おっと、この「船に乗る」「船から降りる」のも実は大変なのです。港からだったら問題はありませんが、航行中の船に乗ったり降りたりする場合、大きな船と小さなパイロットボートの進路と速度を合わせ、舷側のパイロットラダー(縄ばしご)を使いますが、その時落ちて二つの船の間に挟まれての死亡事故があるそうです。職場に行くだけで死亡事故覚悟とは、大変な職業です。
 まず紹介されるのは、まだ数少ない女性パイロット。海技大学校水先養成コース第一期生の若いパイロットです。次は、フェリーの船長を定年退職後にパイロットになった転身組の男性。乗船から下船まで立ちっぱなしで集中力を保ち続ける仕事ですが、10時間までは「1人乗務」なんだそうです。それで神経をすり減らして、やっと解放されたら、降りる(船から船に飛び移る)ときに事故が起きやすいのもわかる気がします。瀬戸内海を常にカバーできるように彼らは交代で門司で待機するため、自宅とは別に門司にアパートを借りている人がほとんどだそうです。「待機」を命じる側が宿舎を確保したりはしないんですね。不思議です。
 外国航路の船乗りには「いつかは水先人」という言葉があったそうです。上り詰めて外国航路の船長に。そしてそれを3年以上経験したら水先人になれる、という憧れの言葉だそうです。現在は養成コースからもなれるようになりましたが、この業界は人手不足に悩んでいます。その原因の一つは「日本人船員の減少」。便宜置籍船が増えて外国人船員が増え、1974年に5万7000人いた外国航路の日本人船員は、2015年には2200人に減少しているのです。しかも水先人の仕事は、責任は重く体力的にきつく、でもびっくりするような高収入があるわけではない。それは、若者には人気は出ませんよねえ。だけど、統計的には、パイロットが乗った船の事故率は1/10くらいになるので、とっても重要なお仕事なんですけど。
 日本には35の水先区があります。その中で内海水先区は瀬戸内海の航行があるため業務時間が他の区よりも長くなります。だから敬遠される傾向があるのですが、逆に「少しでも長く船に乗っていたい」と言う人には人気の区となっているそうです。そのためか内海水先区では若い人、それも女性が増えています。すると次の問題は、子育てがやりやすい職場環境が作れるかどうか。幹部はいろいろ知恵を絞っています。
 水先人の仕事は「水先法」という法律で規定され、資格は国家資格です。正式名称は「水先人(英語ではパイロット)」。ほとんどは港やその周辺の水域で、船舶の安全な出入りに寄与しています。外洋だったら船長がいろいろ判断しますが、細かいところでは“その土地(水域)のプロ”に任せた方が安心・安全ということです。水先人は法的には個人事業主で、立場は「船長への助言者」です。だから自分で操船はしません。方向や速度を細かく指示するとそれを船長が操舵手や機関手に命令する形で船は進んでいき(あるいは後進し)ます。水先人の免許は、現在1級〜3級に分かれていて、それぞれ乗ることができる船舶の大きさが規定されています。定年は72歳未満ですが、体力がなくなると業務が無理になるので、皆それぞれ体力トレーニングは欠かさないそうです。「七つ道具の内容」とか「なぜ帽子をかぶっているのか」とかのトリビアも興味深く、自分が知らない魅力的な世界についていろいろ知識を得ることができました。ただ、どんな職業も“外側”の人間からは「自分が知らない世界」であるわけで、こういった本はいろんな職業についてもっと出版されても良いのではないか、と思います。


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