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2017年08月24日06:59

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とりあえずビール

 昭和の頃の飲み会は「とりあえず、ビール」で始まるのがお約束でした。あまりにそのお約束が強かったため、商品名で「とりあえずビール」というのを売り出したらどうか、なんてふざけたことを思いついたのは、たぶん私だけではないはずです。

【ただいま読書中】『キリンビール高知支店の奇跡 ──勝利の法則は現場で拾え!』田村潤 著、 講談社(+α新書)、2016年、780円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4062729245/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4062729245&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=a89a137626c0c1b3399bb3414154b169
 かつて「ビールはキリン」でした。ビールのシェア60%がキリンだったのです。しかし1987年にアサヒがスーパードライを発売、それまでの殿様商売にあぐらをかいていたキリンは苦戦が始まり、2001年にはアサヒがシェアでトップを取ります。そういった“逆風”が始まった頃、全国でも最苦戦地区だった高知県に、著者は支店長として赴任しました(左遷されました)。
 本社はあせっていろんな“ノルマ”を地方に課します。しかし、本社の方ばかり向いて仕事をしていると、地域の人に見放されます。だから著者は「責任は俺が取る」と本社の指示を無視するよう営業マンに指示します。さらに本社は、主力商品であるラガービールの味を変える、という失敗をしました(そういえばコカコーラも、ペプシとの「コーラ戦争」で劣勢になったとき伝統の味を変える、という大失敗をしました。考えることはどこも同じようです)。それでも著者は、営業マンが体を壊すまで徹底的に現場を回ることを指示します。さらに「高知県だけのコマーシャル」を始めます。それまでキリンでは前例がない試みだったため、相当抵抗があったようですが。さらに著者は全国支店長会議で「ラガーの味を元に戻せ」と要求。誰も味方が現れず(会議の後で「良く言った」と言う人はいたのですが)著者は肩身が狭い思いをし、それどころが支店長会議そのものがなくなってしまったそうです。それでも「現場の声」は社長に届き、とうとう社長が(重役会議への根回し抜きで)「味を元に戻す」とマスコミに発表。著者は大喜びで高知新聞の取材に「高知の皆様のおかげで、味が元に戻りました」と。
 著者は「コミュニケーション」を重視しています。本社が間違った決定をするのは、現場の情報が不足しているから、だったら現場の情報を自分が本社に届ければいい、という考え方をしています。同じ情報を持てば同じ決定にたどり着くはずですから。
 営業マンの動きも違ってきていました。著者赴任当時には月間30〜50軒の店に営業活動をしていたのが、400軒くらい回るようになっていたのです。営業マンもコミュニケーション重視で動くようになりましたが、そこで著者が面白く思ったのは「質問」をしていることでした。たとえば「どうしたらキリンをお客さんにもっと飲んでもらえるでしょうか」と料飲店の主人に尋ねているのです。頼られたら悪い気はしませんし、それで思いついたことを言ってそれがキリンに採用されたらもっと気持ちが良くなります。
 四国三県ではキリンはアサヒに負け続けていましたが、それまで最下位だった高知では異常に勝つ、という不思議な現象が起きました。2001年に高知では、キリンがアサヒからシェアトップを奪い返しました。しかしその時、全国ではキリンがトップから陥落していたのでした。
 ともかく、全社レベルで最下位の高知県が「V字回復」をしたわけで、本社としてもそこから「教訓」を得ようとします。しかし目に見える実際にやっていることは愚直な営業回りだけ。ただ「営業回り」は手段であって目的ではありません。大切なのは「高知のお客さまのために」という思いを全員が持っていることだそうです。
 著者は2001年に四国地区本部長となり、高知の手法を四国全県でも行おうとしましたが、各県の県民性は違うし、各県同士が仲が良いとも言えません。そこで著者は「理念」「ビジョン」「行動スタイル」は高知のものを使うが、戦略・戦術は現場で考え現場で実行することとしました。そこで著者も「現場」に足繁く通います。「指示」のためではなくて「支援」のために。その結果、4県からそれぞれ異なる戦略が提案されることになりました(それまでのキリンのトップダウン方式とはずいぶん違いますが、トップダウンでじり貧だったからこそ別の手が試せたわけです)。
 次は東海地区本部。ここでは「不振をどうするか」の会議がやたらと開催されていました。著者には「時間の無駄」「形式主義」「現場から目をそらしているだけ」に見える態度です。そこで著者は「会議禁止令」を出します。さらに料飲店部門に「すべての店にキリンを入れろ。ただし金は使うな」という明快な命令も。「どうやって?」と聞くと「それは自分で考えろ」ですから現場はたまりませんが、窮すれば通ずでいろいろ皆で工夫をするようになったそうです。
 2007年著者は本社の営業本部長になります。これまで「本社の言うことは聞くな」と言っていたのがこんどは「本社の言うことを聞け」と言う立場になったわけ。「えらくなる」というのは、人を時にとっても難しい立場に追い込んでしまいます。ただ「(キリンのため、あるいは自分の成績のために)キリンを置いて下さい。100ケース買ってくれたらおまけもついてきます」とか言うのではなくて「この店の売り上げを増やすために、キリンをこんな風に置いて下さい」と提案する方がよほど効く、というのは、たしかに効果的だろうな、とは思えます。
 本書には著者の個性が充満しています。どうやらとっても“熱い”人のようですが、この人がいなくなった後、キリンがどうなるのか、そこにも私は興味を持ってしまいました。
 しかし、私は不思議な思いがします。「美味いから売れる」はわかります。しかし「イメージ」や「コミュニケーション」で売れる、となると、「ビールの味」って何だろう?とも思うんですよね。


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