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2017年06月13日22:16

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小型の台風

 一昔前には「小型で強力な台風」という言い回しがけっこう使われていましたが、「小型」と聞いた瞬間安心して「強力」を聞き逃して被害を受ける人がいる、といういちゃもんがついて、この言い回しは使われなくなった、と聞いたことがあります。小型でも大型でも、強力でも強力でなくても、台風と言うだけで警戒した方が良い、と思う私は、「洪水」が身近にあった昭和の遺物なんでしょうか。

【ただいま読書中】『ハリケーン』デズモンド・バグリー 著、 矢野徹 訳、 小学館、1995年、1553円(税別)
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 カリブ海の孤島サン・フェルナンデス島は独裁者セリュリエールの軍事独裁下にありました。島にはアメリカ軍の基地がありそこからハリケーン観測にプロペラ機が派遣されていましたが、乗っていた気象予報官ワイアットはそのハリケーン「メイベル」がこれまでのハリケーンとは別物の怪物であることを知ります。メイベルは他のハリケーンとは違う進路をたどり大災厄となるのではないか、とワイアットは予感しますが、彼の言葉は、基地の上司にも、思いあまって訴えたセリュリエールにも無視されてしまいます。
 ワイアットはプロ中のプロです。しかし恋人のジュリーは気象については全くの素人。だからワイアットはハリケーンや地球環境について彼女に詳しく説明しなければなりません。読者にとってもジュリーへの説明は非常にありがたいことです。
 ワイアットの一族はかつてセント・キッツ島に住んでいましたが、ハリケーンで島は滅茶苦茶になりグレナダに両親は移住、しかしそこもハリケーンに襲われ両親は死亡した、という過去を持っています。だからハリケーンに取り組む姿勢や感覚には、他の人とは一線を画したものがあります。
 島は別の面で緊迫していました。反政府軍のリーダー、ファーベルがついに一斉蜂起を起こしたのです。砲声とハリケーンが、島の首都サン・ピエール市に近づいてきます。
 ワイアットの見立てでは、急激な気圧低下によって生じる高潮が、最高10m以上の高さになってサン・ピエース市を襲うはずです。だから住民を避難させなければ、何千何万の死亡者が出るでしょう。しかしその言葉に耳を傾けたのは、反乱軍のファーベルだけでした。彼は言います。首都は政府軍に明け渡す、住民は逃がす、そして、高潮に政府軍を蹂躙させよう、と。史上初の「気象兵器」の使用です。ただしそれは簡単なことではありません。5千の兵で数倍の政府軍と戦いながら首都の6万の住民を脱出させ、さらに政府軍を首都に足止めしなければならないのです。
 ハリケーンに人殺しをさせようとするファーベルの計画にワイアットはショックを受けます。ワイアットはすべての人を救いたいのですから。さらに自分の恋人が政府軍に捕えられていることを知ります。しかし、時間がありません。
 そして、巨大なハリケーンが島を直撃します。アメリカの竜巻でさえちっぽけに見えるくらいの巨大なエネルギーが島の表面を8時間かき回します。やっと静かになって人々はほっとしますが、それは「目」に入ったからでした。嵐の残り半分がこれからやって来るのです。
 豪快な大人物を気取っているが実は臆病者、臆病な卑怯者、野卑に見えて実は繊細な者、などなど魅力的な登場人物が豊富なため「ヒーロー」と「ヒロイン」が肩身の狭い思いをしています。ただ、本書の本当の主役は「ハリケーン」そのものです。最初に空中から、最後は地上から、実に迫力たっぷりにその“姿”が描かれます。もしかしたら、地球上を舞台にした小説で、最大級の役者、ではないでしょうか。


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