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2017年03月04日07:03

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大事なもの

 この世には、「正義の話をしよう」とする人もいれば、「トイレの話をしよう」とする人もいます。どちらもないと困るので、実はどちらも大事です。

【ただいま読書中】『トイレの話をしよう ──世界65億人が抱える大問題』ローズ・ジョージ 著、 大沢章子 訳、 日本放送出版協会、2009年、1800円(税別)
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 まず扱われるのは日本の「暖房便座トイレ」です。60年前にはくみ取りトイレを使っていた国民が、今ではハイテクのトイレを当たり前のように使う「革命」を成し遂げました。著者は「革命が成し遂げられたこと」と同時に「その革命が世界に広がらないこと」に注目します。
 著者はTOTOとINAXを訪問し、その企業文化の違いを知ります(私自身にもこの違いは新鮮な知識でした)。しかし、15年で日本のトイレ文化を変えてしまった両メーカーも、アメリカでは苦戦しています。アメリカの消費者は「トイレの能力(どのくらいの量の便を詰まらせずに流すことができるか)」にはこだわりますが、お尻を洗うという行為や快適性には興味がないのです(というか「お尻」にあまりに興味があるから逆にお尻がタブー視され、そのあおりを食ってお尻に関する商品も「タブー」視されているのかもしれません)。
 著者が次に向かうのはロンドンの下水道です。実に様々なものが流れています。便、コンドーム、大量の油、大量の熱湯、固まりかけたコンクリート、フィルターを詰まらせるのにぴったりの太さの綿棒、手榴弾……  ロンドンの下水道作業員はおおむね陰気ですが、ニューヨークの作業員は陽気でした。仕事にプライドを持っているのです。しかし、社会ではその労働の価値を高く評価されることはありません。
 地球上に住む4割弱の人は、トイレがない生活をしています。助けを必要としている世界の衛生状態に対して働いているのが、世界トイレ機関(WTO)です。「汚れた水による疫病」とはつまり「尿や便が混じった水を飲むことで発病している」ことで、それに対する簡単な解決法が「トイレ」なのです。しかし、トイレや下水の重要性はわかっていても、そのために“投資”する人はあまりいません。むしろ、トイレに真剣に取り組む人を茶化す方に熱心になります。それは間違っているのですが。
 インドの「アウトカースト」の人々は、皮なめしや人の火葬、そして素手で人の糞便をすくい取る仕事をしています。だからカースト制度上彼らは「触れてはいけない人」です。しかし、1993年に出された法律では、素手で糞便をすくい取らせることは違法となっています。だから理論上は「そういった人」は存在しないことに…… すると著者がインドで出会った「そういった人」は、誰だったのでしょう? しかしインドでも「トイレ文化の革命」が起きつつあります。コップ一杯分の水で流して、集めた糞便を堆肥にする簡易トイレです。
 日本で屎尿は熟成させてから肥料として用いられますが(だから寄生虫の心配は減っています)、中国では“生”で畑にまかれていました。そのため衛生面で大きな心配があります。それに対する一つの回答が「バイオガス」でした。ただし、インフラ整備と保守に関して中国は大きな問題を抱えています。
 日本では「屏風」「襖」「障子」はプライバシーの確保には本当は役立ちません。しかし「その向こう」はのぞき込まない・音が聞こえても無視をする、という「社会的約束(儀礼)」によって「プライバシー(のようなもの)」は日本で守られてきました。それと似ているのが「トイレの壁や扉」です。これは防音にはなっていないし臭いも防げません。しかし「壁の向こうは無視する」という「社会的お約束」によって西洋でも「トイレでのプライバシー」は守られてきた、という本書の指摘は、私にはとっても楽しいものでした。異文化であっても、人としての感覚には共鳴するところがどこかにあるようです。


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