２２８

　日本で２２６と言ってももうわからない人がいるかもしれませんが、では２２８はどうでしょう？

【ただいま読書中】『汝、ふたつの故国に殉ず　──台湾で「英雄」となったある日本人の物語』門田隆将　著、　角川書店、2016年、1800円（税別）
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　1895年熊本から台湾に酒井徳蔵という青年が旅立ちました。そこで警察官として勤め、台湾人の女性と結婚。当時は日本人と台湾人の結婚は法的に許されておらず、そこで結婚を貫くには相当の覚悟が必要だったはずです。徳蔵はやがて事件に巻き込まれて死亡。父を失った息子の徳章は、「台湾人」として育ち警察官となります。そこで見聞・体験したのは「台湾人差別」の実態でした。徳章は「正義の人」として名前が知られるようになりましたが、もっと“上”のステージを目指し、戦時中の日本で猛勉強して高等文官「司法科」と「行政科」の両方の試験に合格してしまいます（今の日本の、司法試験と国家公務員上級試験に相当します）。エリートとしての将来は約束されましたが、徳章は船が撃沈される危険を冒して台湾に戻ります。「台湾人」として故郷でするべきことがある、と。昭和18年9月徳章は台南市で弁護士業務を開始します。取り組みの眼目は「人権問題」。しかし戦況は悪化、台南市も空襲を受けます。
　そして日本敗戦。すると日本軍に従軍していた台湾人兵士・軍属は突然「勝った側」になりました。43年のカイロ会談で、「台湾は中華民国支配とする」と先に決められていたのです。「支配者」としてやって来た国民党軍は、略奪強奪を平気で行う堕落腐敗した軍隊でした。台湾の人々が見慣れていた規律正しい日本軍とのあまりの違いに、台湾人は呆然とします。さらに政府などの重要ポストはすべて大陸からやって来た者で占められます。ハイパーインフレ、コレラの発生……台湾は騒然とします。
　1947年２月27日、路上でのタバコ売りを巡ってのトラブルから翌日台北では行政長官公署にデモ隊が押し寄せますが、非武装の民衆に対して屋上から機関銃掃射が行われました。台湾人の怒りはついに沸騰点を突破、全島に暴動が広がっていきます。「二二八事件」です。政府は戒厳令を宣言。いくら国共内戦の最中でも、暴動が長引けば蒋介石は正規軍を送ってくるでしょう。台湾は大量殺戮の場となってしまいます。
　徳章は事態収拾に動きます。台湾人の怒りを静め、しかも国民党政府に譲歩させる手を探るのです。まず武装蜂起を計画していた学生たちに、「台南市の治安維持への協力」を頼みます。そのニュースを聞いた人たちは、一瞬立ち止まります。その「一瞬」がすべてを変えました。さらに徳章は「これは単なる暴動ではなくて、新国家建設のための民主化運動だ」と宣言します。騒動になったのは，汚職役人たちや差別主義者に対する怒りが貯まっていたからだ、と。
　しかし、大陸人で構成された台湾政府は別の考えを持っていました。「日本人」や「共産主義者」に扇動された暴徒が台湾中を破壊している、と蒋介石に報告したのです。
　取りあえず事態を収拾するために蒋介石は「素敵な言葉の妥協案」を示します。そして、それを信じた台湾人が油断したところを見透かして、高雄市で武力攻撃を開始しました。そして次は台南市。逮捕された徳章は憲兵隊の拷問を受けます。日本人の血が混じっていることから自動的に“有罪”の彼は、“共犯者”の名前を言えと責め立てられました。肋骨・腕の骨・指の骨を次々折られますが、徳章は屈しませんでした。とうとう何も“白状”しないまま、死刑執行。その場で徳章は「台湾人のためのメッセージ」を発します。
　二二八事件で殺された人の数は、２万から３万と言われていますが、正確なところはわかりません。特に狙われたのは、高等教育を受けたエリート層でした。ただ、国民党軍が人の尊厳を踏みにじるやり方で人々を殺しまくったことは、台湾の人々の記憶に刻み込まれました。
　1987年、38年も続いた世界最長の戒厳令がついに解かれました。政党結成の自由もなかったのですが、前年に結成されていた民進党も合法化されます。そして徳章の“復権”も。さらに2014年３月13日、徳章が殺された日を台南市は「正義と勇気の記念日」に制定します。
　2016年民進党の祭英文が総統選当選。「台湾」は新しい一歩を踏み出しました。徳章がそれを知ったら何を思うでしょうねえ。そして、日本人の多くは何を思ったのでしょう？