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2017年02月02日06:55

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大統領令

 オバマさんの時には「いろいろ演説したり大統領令を出しているけれど、たとえアメリカ大統領でも、そんなことを望んでも無理だよ」という意見が多かったと私は記憶していますが、トランプさんの場合は「それが全部通ったら、どうなるんだ?」と不安や恐怖に彩られた意見が多いようです。同じ「大統領令」なのに、どうしてそんなに扱いが違います?
 そうそう、アメリカ政治では「演説」がとっても重要なはずですが、いつから「指先」の方が演説より重要になったんでしょうねえ。

【ただいま読書中】『アイルランド大飢饉 ──ジャガイモ・「ジェノサイド」・ジョンブル』勝田俊輔・高神信一 編、刀水書房、2016年、6500円(税別)
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 1845年夏、アイルランドのジャガイモ畑に異変が起きます。5年間続くジャガイモ凶作の始まりでした。当時アイルランドの貧民の主食はジャガイモだったため、餓死・病死が大量に発生し、食い詰めた人はイングランドやアメリカに移民をし、全人口は850万から650万に減少しました。
 イングランドとアイルランドは連合王国でしたが、アイルランドの後進性は際立っていました。唯一対抗できるのは豊富な労働力だけ。ナポレオン戦争後、アイルランドは農業不況に苦しんでいました。人口の最大多数は貧農です。土地は細分化されており、アイルランドでは工業ではなくて農業、その中でも畜産ではなくて穀物とジャガイモ生産に労働力を集中させました。ジャガイモ(と牛乳)で生き、穀物は売って地代に充てました。それでも、食うに困ることはなくて、穀物はイングランドに大量に輸出していました。
 病気による19世紀のジャガイモ飢饉は、世界各国でも発生していましたが、他の国ではアイルランドほどの死者は発生していません。それは、アイルランドがジャガイモに頼りすぎていたことと、最初の年に収穫の3/4を失って種芋も足りなくなったためにその後何年も飢饉が継続したことによるようです。
 日本では米騒動がありましたが、アイルランドでも暴動がありました。ただ、一揆や革命に通じるくらいの勢いはありませんでした。それは、「飢饉は天災」という諦念や「神罰」というあきらめ、それとあまりに腹が減って力が出ない、という事情もあったようです。
 政治家の方では事情が違います。イングランドからの自治獲得を目指す人は、「飢饉は人災」と主張しました。イングランドが穀物を奪っていったから餓死者が生じている、というのです。実際には輸出は止まり、輸入になっていたのですが。そしてこの主張は過激さを増し、のちに「イングランドはアイルランドの民族絶滅を狙っている」という陰謀説になっていきます。
 当時のイングランドは古典派経済学の立場で自由放任主義でした。それでもアイルランドの救済策が実行されますが、最初の公共事業は、農業ではなくて土木工事などでした。食糧は与えずに工事に賃金を与える、というやり方です。そういえばイングランドの新救貧法は「貧乏人を甘やかしたらますます駄目になる」が原則の厳しいものでした。だからアイルランドの飢えた人にも同じ態度(むしろ厳しい態度)のアイルランド救貧法が制定されました。
 もう一つ、「マルサスの人口論の実証例」という見方もありました。この立場だったら、飢餓は理論の正当な帰結なのだからそれに対する救済は無意味、ということになってしまいそうです。
 政府による「救貧」以外に、民間の「チャリティ」も大規模に行われました。ただ、なぜかチャリティに関しては系統だった研究はあまり行われていないそうです。「アイルランド対イングランド」の構図にはおさまりにくいからかもしれません。
 移民となってアイルランドを離れた人は、1845年から50年までで120万人、55年までで計210万人となり、そのうち150万人がアメリカを目指しました。そのほとんどはカトリックで、それまでプロテスタントが主流だったアメリカに大きなインパクトを与えました。「危険集団」だと見なされたのです。さらに新参移民につきものの偏見と差別。立場が弱いアイルランド人はアメリカで自分たちだけのコミュニティーを形成します。
 ……こうしてみると、19世紀も21世紀も、移民や難民に対する遇し方の基本は変わっていないようです。
 アイルランド人コミュニティーの中では、ナショナリズム(反英の独立運動)は本国でよりも先鋭化していき、そこで「ジャガイモ飢餓」はそれまでとは違う(反英の)文脈で読まれるようになりました。「飢饉は(ブリテンに責任がある)人災」である、と。ただし、アイルランド系移民でも、中産階級は「アメリカの生活が大切」で、労働者階級は「祖国の独立運動に熱狂」という“温度差”がありました。
 イングランドが本当にアイルランドの“ジェノサイド”を狙っていたのかどうかはわかりません。それを願った人はいたかもしれませんが、そういった人が実際にそのために努力をしたかどうかはわかりませんし、その努力が実を結んだかどうかもわかりません。ただ、「大飢饉」という悲劇を政治問題化することは、ある種の人にメリットをもたらすだろう、ということは簡単に想像できます。ただ、その「メリット」が「悲劇の予防」に役立つのだろうか、という疑問も私は同時に持ちます。私は「政治」よりは「悲劇の予防」の方に興味があります。


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