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2017年01月05日06:32

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脳科学者の謎

 テレビによく出てくる「脳科学者」は、「脳の何」の専門家なんでしょう? 解剖?生理?病理?心理?遺伝子? ついでに、左脳と右脳のどちらの専門家なんでしょう?

【ただいま読書中】『「左脳・右脳神話」の誤解を解く』八田武志 著、 化学同人、2013年、1600円(税別)
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 「脳には左右差がある」は1861年ブローカが発表しました。左大脳の障害によって言語障害が生じる、逆に言えば言語中枢は左にある、という内容です。それから100年後、「離断脳(大脳の左右を手術で離断したもの)の研究」から「左右の脳の違い」が広く言われるようになりました。ところが「左右の脳がそれぞれ独立した役割を果たしている」という誤解が世間に蔓延することになります。そういえば昭和の末頃でしたか「左脳は言語・論理を処理し、右脳は画像処理を行う」なんてことが盛んに言われていましたっけ。ところがその主張の根拠となった「離断脳に対する実験」が、原論文の実験計画が怪しかったり、きちんとした論文でもマスコミがそれを歪めて報道したりで、どうもエセ科学的な主張が蔓延していたようです。
 脳に「左右」があることは古くから知られていましたが、その「機能」については長く不明のままでした。そして左右をつなぐ「脳梁」は「左右をつなぐ構造物(だから「梁」)であって、大した機能は無い」と信じられていました。それを丁寧な動物実験で追究したのが1950年代のシカゴ大学のマイヤースとスペリーで、動物の脳梁を切断して離断能動物を作りその機能を研究することで「左右の脳は別々のもの」であり「脳梁は左右の脳の情報を伝達する重要な機能を持つ」ことを明らかにしました。手術された動物は、ネコやサルですが、オックスフォード大学ではタコが手術されています。そして話は人体へ。脳腫瘍手術やてんかんの外科治療で脳梁を切断された人を対象に研究が行われるようになったのです。
 著者は「そろばん熟達者」の研究を行っています。「数」は「言語材料」なので左脳で処理されますが、そろばん熟達者が暗算をするときには脳内にそろばん(またはそろばんに似たもののイメージ)を置いてそれで計算をします。ということは、右脳を活用してそれを左脳が利用する、ということになります。ここで「本当に脳内にそろばん(のイメージ)を置いているのか」から実験で確認するところが科学的です。それから「イメージを使った数処理」を本当に右脳で行っているのかどうかの確認です。すると、右脳の活動を左脳が利用している、つまり、そろばんが上手になることで脳の機能が変化しているらしいことがわかりました。
 そういえば「日本人の脳は外国人の脳とは違う(虫の音を日本人は左脳で,西洋人は右脳で処理する、といったもの)」という主張もありました。著者もその研究について調べていますが、学術論文が存在しない・それを主張する角田が「日本人」も「違い」も定義していない、さらには自身で角田の主張を厳密に追試した結果などから、「角田理論」を否定しています。しかしマスコミは「角田理論」に飛びついて大騒ぎし、それを否定する論文の存在は無視しました。1990年に立花隆がこの話を蒸し返し、「科学朝日」上で議論が行われました。しかし、批判に対する角田の反論が要するに「自分の主張に合うように母集団の条件を揃えたら、自分の主張通りの結果が出る」であるのには、私は唖然とします。だってそれは「科学」ではありませんから。集団を相手に実験をする場合の「母集団」でとても重要なのは実験者の恣意や主観が入らないように「ランダマイズ化」されていることです。それを無視した「科学的主張」はエセ科学の範疇なのです。
 ベストセラーになった『右脳革命』も訳書と原書に当たって著者は検討していますが、「創造性」を強調している割に「創造性とは何か」の詳しい記述がなく、飛躍や誇張が目立つそうです。それでも論文を数百丁寧に読み込んで「左右の脳のバランスが大事」という結論を得ています。ところで原書では「右脳を鍛えたら創造性が高まる」という記述はないそうです。それは翻訳書の“オリジナル”。しかし「神話」は確立し、ひとり歩きすることになりました。たぶん今でもこの神話を信じている(すでに訂正されていることを知らない)人は今の日本には多いはずです。
 マスコミは売れるとなったら何にでもわっと飛びつきますが、その後のフォローをやらないのは無責任に感じます。こんなことを言っても、蛙の面に小便でしょうけれど。おっと、蛙に失礼でした。


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