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2017年01月02日08:14

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未来志向

 いつまで謝罪を続ければいいんだ?
         ──東電

【ただいま読書中】『福島第一原発廃炉図鑑』開沼博 編、太田出版、2016年、2300円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4778315111/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4778315111&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 福島第一原発(1F)で「実際に何が行われているか」についての「図鑑」です。文字だけではなくて、写真や漫画まで活用して、「イメージだけで語ること」ではなくて「まず知ること」が優先されています。
 本書では「フクシマを巡っては『言葉の空白化』『魔術的な言葉遣い』『エセ科学』が横行している」ことに対して「きちんとした『批評』」を対抗軸として建てる、そのためには「現実を言語化する」ことが重視されているように私には読めました。かつて「科学」が「百科全書」と「(系統的な)分類」を源流として成立したように、「フクシマ」もまた「図鑑」と「科学」によって位置づけられるべきではないか、と主張しているように感じられるのです。だから「1F廃炉最大の問題」は「何を知らないか、そのこと自体を知らず、マスコミに断片的に報道された情報あるいはネットでの怪しい噂によって形成され固定化されたイメージによって『1F』を語ること」になります。
 だからといって、すべての人が福島に押しかけて「現実」を知ることはできません。そんなことをしたら現地に迷惑ですし「すべてを知る」ことはできません。だから本書を「入り口」にして「情報収集」と「知識の整理」と「自分の考えを構築すること」を粘り強く続けることが「1Fに対する態度」としては望ましいことになるでしょう。「無知」と「無理解」は「理不尽な恐怖心」をもたらすだけで、それだと「化け物を怖がっていた昔の人」と何ら変わらない心性のあり方になってしまいます。だけどそういった「恐怖心」は「廃炉」を進めるためには障害物となります。だから本書は「無関心層」「無理解層」に向かって情報発信することを目的としています。
 まずは「廃炉の定義」から。本書では「すべての廃棄物(核燃料、建屋、除染土、汚染水、装備品など)の処理」「周辺地域の産業やコミュニティの再構築」と定義されます。実はこの「定義」さえあいまいなまま「廃炉」について発言する人が多くいるのだそうです(もちろん独自の定義に基づいて発言するのは自由ですが、その場合は「自分の定義」を先に明示しておかないとフェアではないでしょう)。
 「汚染水」に関して、当初は大変でしたが、「ALPS」が稼働し始めて状況はだいぶ落ちついてきたそうです。「ALPS」もぶっつけ本番で現場で組み立てられて稼働させられたため最初は初期不良が出まくり、マスコミは大喜びでそれを報道しましたが、順調に稼働し始めたらそれは報道しません。実際にはALPSは62種類の核種が除去できるが、トリチウムだけは除去できないので「トリチウム水」をどうするかという問題点をきちんと議論する必要があるんですけどね。「凍土壁」については、本書では中立的に扱われていますが、私は懐疑的です。「電気が必要」「効果を確認するのが困難」「長期間の確実性が無い」「ここまで大規模な工事の実績が無い」ことが「懐疑」の根拠です。ついでに「濃度が低ければ海洋放出はOK」という考え方に私は反対です。「濃度さえ低ければOK」と言えば必ず「薄める」人が出てきます。これだと「総量」は変わらないことになってしまいますから(かつての高度成長の「公害」の時代に、実際に「化学物質で汚染された排水を水道水や川の水で薄めて環境基準“濃度”をクリアする企業」が存在しました)。
 意外な「放射性廃棄物」もありました。事故当時1F構内にあった自動車は汚染されたため現在は構内専用車として使われています。これが廃車になると、まるごと「放射性廃棄物」になるわけです。どう「処理」します? 本書には「全国から寄せられた千羽鶴」が1F内に飾られている写真もありますが、これもそのまま「放射性廃棄物」になるんですよね。
 デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しもまだまったく未解決の大問題です。ただ、全自動のロボットなどを開発できたら、それはたとえば大災害の時の救助とか宇宙開発への応用も効きそうです。かつての「アポロ計画」と同等に、とまでは言いませんが、もっと熱心に予算をつぎ込んでも良いのではないか、と私には思えます。
 「オンサイト(1F構内)」の作業員に弁当を届けているのは、2015年春大熊町に作られた給食センターで、昼は1800食・夕は200食を届けているそうです。東電が運営にかかわっているので、ガスは使わずオール電化というのが笑えます。食材は可能な限り福島県産を使う原則で、現在全体の3割くらいが福島県産だそうです。
 オンサイトの作業を順調に進めるためには、オフサイト(1F周辺)の環境も重要です。現時点で3万人くらいの人間が周辺に住んでいますが、今から帰還してくる住民がそこに加わります。
 1Fから20kmのところにJヴィレッジがあり、作業の中心基地として機能していましたが、2019年にはサッカーに返されるそうです。毎年毎年「あと40年」と言われているような気もしますが、少しずつですが「廃炉」は進んでいるようです。


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