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2016年12月29日06:50

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三体問題

 ニュートン力学では、惑星などの重力源が3つあると、それぞれがそれぞれに影響をしてその影響が自分に返ってくるので軌道計算はとてつもなく困難になります。では生態系で共存・競争・妨害をしつつ安定している極相でそれぞれの生命がどのような関係を持ち合っているのかの生物学的計算はどうなんでしょう。やはりとんでもなく難しいもののような気がするのですが。

【ただいま読書中】『植物たちの静かな戦い ──化学物質があやつる生存競争』藤井義晴 著、 化学同人、2016年、1600円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4759816712/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4759816712&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 生存競争は動物だけではなくて,植物の間でも行われています。光を独占するために、少しでも高く幹を伸ばす、あるいは少しでも広い面積を占める、あるいは化学物質(アレロケミカル)を分泌することで他の植物を攻撃するアレロパシー。本書は「動けない植物」が用いる化学戦略についての本です。
 アレロパシーのことばと概念は1937年にモーリッシュが提唱しましたが、その現象観察記録は古代ギリシアまで遡ることができます(日本では江戸時代の熊沢蕃山が記録を残しています)。
 「連作障害」という現象があります。これは、病虫害や特定の植物が土壌中の特定の栄養分を使い切ってしまうことによる場合もあるでしょうが、アレロパシーによって特定の化学物質が土壌中に蓄積されて他の植物が生育しにくくなる場合もありそうです。
 アレロパシーは「攻撃」だけに限定されているわけではありません。「他の生物(植物だけではなくて、動物や昆虫や微生物も含みます)に対して自らが分泌する化学物質で何らかの作用を示す」ことを意味しています。なお、アレロパシーはドイツ語で、だからその原典をきちんと読んでいる英米圏および日本人はあまりいないそうです。また、それと似た概念の「フィトンチッド」はロシア語で、こちらも文献を原語できちんと読んでいる研究者はあまりいないそうです。
 ギンネム、アカマツ、サルビアなど、様々な植物でのアレロパシーが研究され、その中でアレロケミカルが特定されたものもあります。もっとも自然環境は複雑ですから、単一の物質だけですべてが説明できるかどうかはなかなか証明が難しいのですが。
 外来植物であるセイタカアワダチソウは日本で繁栄していますが、アレロパシーが強いことで有名だそうです。まだどの化学物質が在来植物に対する「新兵器」なのかは仮説の段階ですが、少なくともアレロパシーが繁栄をもたらしていることは間違いなさそうです。ナガミヒナゲシやニセアカシアも同じようにアレロパシーによって日本で繁栄しています。
 しかし、植物が分泌するのが「クマリン」とか「シアナミド」とか、どこかで聞いたことがある物質であることを知ると、生態系の不思議さが少しわかった気がします。
 アレロパシーを活かした「生物農薬」は各国で発売されていますが、「病害虫や雑草に対して働く、生物(生きた状態あるいは死んだ状態)またはそれからの抽出物」だそうです。ただし「天敵」や「抗生物質」はここには含まれないそうです。
 野菜で“最強”のアレロパシーを示すのはアスパラガス。根とその周辺の土壌には、非常に強い雑草抑制効果があるのだそうです。化学物質の同定はまだできていませんが、それができたら、他の畑などでの雑草抑制にも応用ができるかもしれません。種々の薬草も強いアレロパシーを示しますが、面白いのは、動物にも植物にも作用を示すことです。動物と植物は、進化論的にはまだ“近い存在”なのかもしれません。
 ヒガンバナも有毒アルカロイドを含んでいて人間やモグラなどに有害ですが、同時に真菌の殺菌作用、ウジ虫の殺虫作用、雑草(特にセイタカアワダチソウなどのキク科植物)抑制作用も示すそうです。
 こういった特定の化学物質を特定してその薬理作用を同定するのは、現在の科学の手法が得意とするところです。しかし、様々な植物や動物や微生物の相互作用の中で、「その化学物質」がどのように単独で作用し、他の化学物質と出会うことでどのように作用を変化させるのか、つまり「生態系そのもの」を調べるためには、「単独の物質の分析」だけではとても追いつけません。もっと新しい手法の開発と、さらには「生態系や環境」をわかりやすく記述する言語の開発が必要になるでしょう。本書でも「若い研究者に期待する」と何回も書かれていますが、私も期待しちゃいます。


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