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2016年12月07日06:50

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出版不況

 出版社が苦しくなっている、とは20世紀末どころか昭和の末期ころからずっと言われ続けているように私は記憶していますが、これから人口減少社会になったら、読まれる本の冊数は(一人あたりの読書量が同じなら)「減るのが当然」ではありません? だったら「減る」を前提とした中でどうやって出版社がサバイバルをするのか、が問題になるはずです。たとえば「ベストセラー狙い」ではなくて「少量多品種で『あなた個人のための本』を売る」に戦略を転換するとか。となると、出版業界が「本を読む人」を具体的にどのように捉えているのか、が次の問題になりますが、出版社は「“マス”ではない、読者個人の顔」を見ています?

【ただいま読書中】『学術書の編集者』橘宗吾 著、 慶應義塾大学出版会、2016年、1800円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4766423526/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4766423526&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 市販される学術書とは、「学問の真理」を市場で売ることを目的としています。学問的真理は市場から独立している必要があります。しかし、まったく売れなかったら社会にその主張を届けることができません。そこには、「経済的なリスク」と同時に「コミュニケーションのリスク」が存在します。その調整をするために「学術書の編集者」が存在する、と著者は考えています。著者は「山人」というカテゴリーを好むそうです。これは、もともとは塵俗を山林に避けた隠者のことですが、やがて世間に入って、儒と商、士と民衆をつなぐ中間的な職業知識人のことを言うようになった言葉だそうです(平賀源内は「風来山人」を名乗っています)。私は「コーディネーター」でも良いのではないか、とも思いますが、言葉のシニフィアンよりはシニフィエの方に注目するべきでしょうね。
 編集者はまず「挑発」を行います。それによって学者や研究者は「新しい何か(原稿)」を生み出します。その時編集者は「非専門家」としての立場にあります。著者は実際に出版した一冊の本をケースとして取り上げ、具体的に学術書がどのように生み出されたかを紹介してくれます。いや、大サービスです。
 しかし、本体5500円、初刷1200部、半年後の実売が800部の本が「好評」と評価できるとは、いわゆる「ベストセラー」とはずいぶん違う世界のお話ですね。
 学術書の出版には、出版助成制度があります。助成団体に申請をして認められると、印刷・製本費用の一部または全部(少数ですが、たまに編集費用の一部まで)が助成されます。初刷分の印税免除が規定されていて、これらによって出版社は出版コストを押さえることが可能になります。ただし、申請が認められると、その年度中に出版する義務も生じます(単年度予算なんですね)。これは編集者にはありがたいことだそうです。締め切り破りをする著者に泣かされることが多いんでしょう。ただし助成制度にはデメリットもあります。助成に頼りすぎる出版社では、本のクオリティが下がります。また、原稿を煮詰める作業が甘い段階で助成申請が通ってしまうと、原稿をブラッシュアップする作業が間に合わなくなってしまいます。「締め切り」というのは,悪い場合もあるんですね。
 本書を読んでいて、「学術書の編集」って、「工場での生産」ではなくて「農業や林業」のイメージを持ちました。「生産する」のではなくて「育てる」イメージです。根気が要る作業ですが、素晴らしい“収穫”があったときには、たぶんとっても嬉しいでしょうね。


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