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2016年11月18日08:44

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はらいそへ行こう

 天国へ行くことを夢見る人は、つまりは「今の現実」を否定しています。そんな性向がもしも天国でも保存されていたら、その人はそのうち「天国からの脱出」も夢見るようになるのではないでしょうか。

【ただいま読書中】『パライソ・トラベル』ホルヘ・フランコ 著、 田村さと子 訳、 河出書房新社、2012年、2200円(税別)
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 自分の国の外に楽な生活を夢見て、コロンビア・メデジンからアメリカにやってきたカップル。女はレイナ(英語だとクイーン)。両眼の色が違う(「オッドアイ」と言うんでしたっけ?)魅力的な娘。彼女に“選ばれた”ラッキーボーイがマーロン。特に取り柄のない中流階級出身の少年は、“選ばれた”ことに舞い上がってしまいます。
 レイナの夢は、アメリカで専門教育を受けキャリアを積むこと。コロンビアではそんなことは、金かコネか幸運がよほどないと無理なのです。しかしアメリカ入国には高いハードルがあります。金とコネとビザ、それと親の許し。しかしアメリカは「コロンビア人」と聞くだけで警戒の目を向け、ビザはなかなか手に入りません。
 話はバラバラに進められます。ニューヨークにやっとたどり着いた二人がはぐれてしまった所から話は始まり、そこからの未来(マーロンがホームレスになり、英語を覚え、“聖母”に出会い、そして……)とそれまでの過去(二人がコロンビアで愛を育み、脱出ルートを探り、ついに非合法なルートを選択してそこでひどい目に遭い、そして……)とがシャッフルされて読者の前に示されるのです。
 ホームレスからやっと生活を立て直してニューヨークでレイナを捜し回るマーロンは、レイナと一瞬の幻想的な出会いをします。どこかで見たことがある、と思ったら、今年の映画「君の名は。」にも出てきたシーンでした。マーロンは自分に一目惚れをしてくれた“奇跡”のような少女に向かって、自分がアメリカにたどり着いた道程を少しずつ語り始めます。
 密入国を請け負う業者の導きにより、“旅行者”たちはコロンビアから迂回してメキシコに密入国します。途中で出会うのは、“旅行者”を侮辱し、少しでもお金をむしり取ろうとするハイエナ集団たちです。
 現在の世界のあちこちで難民が自国を脱出していますが、その時運送を請け負う人たちやその周囲の人たちもまた、こういった“ハイエナ集団”なのでしょう。おっと、ハイエナは同族は苦しめないし、他の動物を殺すのは自然の摂理なのですから、こういった人間をハイエナ呼ばわりするのは、ハイエナに対して失礼でした。
 レイナに呪縛されたままで、マーロンは新しい生活が始められません。傍から見たら、いくらでも目の前にチャンスが転がっているんですけどね。ただ、やっとのことでたどり着いたマイアミでレイナと出会えたとき、マーロンは自分の“祖国”が何であるかを理解します。きっとここから“マーロンの物語”が始まっていくのでしょう。


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