mixiユーザー(id:235184)

2016年11月09日07:22

209 view

文藝

 一昨日の新聞の広告欄に月刊の文芸雑誌の広告が並んでいました。たしか芥川賞や直木賞は5月と11月で半年を区切るから、今月発売の雑誌に掲載されたものまでは来年早々に発表される芥川賞や直木賞の対象として扱われることになるはずです。だから、いわば「駆け込み」で間に合った作品もこの中にあるのだろうな、と私は広告を眺めていました。
 ただ、こういった雑誌以外の媒体(たとえば昔だったら同人誌など、今だったらネット)に発表された作品は受賞の対象にならないのでしょうか。メジャーじゃないから、駄目? だけど、文芸雑誌ってどのくらい“メジャー”です? 非常に限られた読者しか持っていないのではないか、と私には思えるのですが。
 ボブ・ディランがノーベル文学賞を受ける時代です。ネットに発表された小説(あるいは小説でさえない作品)が芥川賞や直木賞を授賞する、なんてことが起きないですかねえ。それは21世紀のブンガクにふさわしいイベントのように私には思えます。

【ただいま読書中】『おいしさの人類史』ジョン・マッケイド 著、 中里京子 訳、 河出書房新社、2016年、2400円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4309253458/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4309253458&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 かつて地球で一世を風靡した三葉虫が味覚を持っていたかどうかは不明です。三葉虫は生き残っていませんから。4億5千万年前に登場した無顎類(最初の脊椎動物)の一種ヌタウナギでは、味覚は毒物排除のため、嗅覚は周囲の環境把握のための手段でした。恐竜の時代、原始哺乳類が生き残るために頼ったのは、体の小ささと知覚の鋭敏さでした。知覚情報を処理するために、脳は新しい構造を必要としました。テキサス大学のティム・ロウは小さな化石をCTスキャンにかけることで、頭蓋骨の内部の立体画像を得て、そこから脳のモデルを構築してそのことを知ります。
 現生人類の祖先がアフリカに登場したとき、脆弱な筋肉と大きな頭のギャップは生存に不利な要素でした。「大きな脳」は大量の酸素と栄養を要求しますが「小さな消化管」はそこまで仕事はできません。ホモ・エレクトスが生の餌だけで体を維持しようとしたら、計算上は1日に8時間咀嚼をしていないといけないそうです。食べもの探しの時間を考えたら、1日中「食べる」ことで費やすことになります。そこで人類は「有能なハンター」になると同時に「優秀なシェフ」になる道を選択しました。調理によって栄養吸収効率を高めるのです。木の実を割ったりひいたりし、さらに「火」を用いることをヒトは覚えました。それにつれて人体の構造は再配置を始めます。哺乳類では口の中の匂いは鼻には流れないようになっています(だから食事中でも外界の匂いを嗅ぐことができます)。しかしヒトでは咀嚼によって発生した匂いが嗅覚受容体に伝わるように口と鼻の設計が修正されました。
 クラゲもミバエもバクテリアも、「苦み」を検知します。これは「毒物」に対する警告システムです。イソギンチャクは腸に取り込んだ苦い化合物を即座に体外に排出します。ところが人類は「苦み」を、顔をしかめながらでも取り込みました。その結果、ビール・コーヒー・ブロッコリーなどが食卓に並ぶことになりました。
 人が牛を家畜化した頃、人の子供は乳糖分解酵素を持っていましたが、大人になるとそれは失われていました。しかし時間をおけば桿菌が乳糖を分解してくれます。また、乳糖を分解できる遺伝子が人類に広まっていきました。酪農は世界に広がり、各地で様々なチーズが生まれました。チーズ(とアルコール)を生み出した「発酵」は、印象的な味を生み、同時に人類に「文化」ももたらします。
 「甘い味」は、生物学的に重要である、と訴えるシグナルです。だから人は甘い物に目がないのですが、現代社会は過剰な糖に満ちています。アメリカ人は一人あたり一日に165グラムの砂糖(小さじ40杯分)を消費しているそうです。世界全体でも2013年には70グラム。脳科学では、甘みが「渇望」や「快楽」を司るニューロンや脳内伝達物質と密接な関係があることがわかってきています。
 トウガラシの辛さは、人類にとっては「新しい味」でした。南アメリカにホモ・サピエンスが到達して初めて出会うことができたのです。化石記録によると、最低8000年前にはメキシコ中央部の人びとは野性のトウガラシを食べており、6000年前には栽培をしていたことがわかりました。日本だと縄文時代ですが、南北アメリカではその時代にすでに「激辛ブーム」があったようです。コロンブスがヨーロッパにトウガラシを持ち帰ると、あっという間に世界にトウガラシは広まっていきます。梅毒とどちらが速かったのかな? トウガラシの辛さは痛みと快感をもたらします。そして、激しい発汗も。トウガラシの辛み成分カプサイシンは、痛みと熱刺激の受容体に結合するのです。大きな謎は、なぜ人はトウガラシによってもたらされる痛みと刺激を「楽しむ」のか、です。「激辛ブーム」はありましたが「激苦ブーム」なんてありませんよね。
 地球上にすでに存在する食材でレシピを作ったら、その数は理論上は数千兆になるそうです。しかしインターネットにあるレシピはせいぜい数百万。すると私たちは膨大な「味」をまだ知らないままでいるようです。本書には、在来の鰹節製作の手法でブタブシ(鰹の代わりに豚肉を用いたもの)を製作した人のことが紹介されていますが、一度食べてみたいものです。味覚で冒険することでヒトは進化してきたし、その道はまだ途中なのかもしれません。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年11月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930