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2016年10月31日19:19

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複数の過去

 「未来」は「選択」によって「あり得る未来」が複数存在します。私たちはその中の一つだけを選択して生きていくわけです。それと同様に過去も「解釈」によって「複数のあり得た過去」があるのではないか、と私は思っています。過去が複数、というと違和感はありますが、解釈は自由でしょ?

【ただいま読書中】『バウンティ号の叛乱』ブライアン・フリーマントル 著、 新庄哲夫 訳、 原書房、1996年、2200円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4562027568/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4562027568&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 傑作スパイ小説『消されかけた男』などで知られる著者が「フリーマントル」ではなくて「ジョン・マクスウェル」名義で書いた長篇小説で、実はこれが処女作だったそうです。
 「バウンティ号の叛乱事件」は割と有名な事件ですが、著者は叛乱を起こされてバウンティ号から小舟で流されたブライ船長と、叛乱の首謀者となった副長のクリスチャンと、両方に視点を置いて交互に記述することで事件を小説的に立体化しようとしています。「何が真実か」はわからないわけですから、これはこれで良い手法だと私は感じます。
 西インド諸島のサトウキビ農園は、奴隷のための食料輸入のコストに苦しんでいました。そこで、タヒチからパンノキを移植することにします。1789年、その輸送のためにイギリスから派遣されたのがバウンティ号でした。しかしブライ艦長に対するクリスチャン副長の反感は異常なくらい高まり、タヒチを出発した直後、ついに叛乱が。艦長と彼を支持する乗組員は、小さなランチでバウンティ号から追放されました。
 クリスチャンは直接殺人をする気はなく、ランチが転覆する、あるいはどこにもたどり着けずにのたれ死にをすることを期待していたようです。しかし船には優秀な航海士がいて、海図と羅針盤と六分儀で無事に5800kmの航海を成功させてしまったのです。そしてイギリスに急報します。
 ただちに探索船パンドラ号が仕立てられ、タヒチで叛乱者の多くを逮捕しましたが、クリスチャンは行方不明でした。
 イギリスでは叛乱者の裁判が進行しましたが、ブライはすぐに次の任務を与えられて、海外に出ていました。ブライが「パンノキを西インド諸島に移植する任務」にこんどは成功してご満悦の時、イギリス本国の軍事法廷では裁判が意外な展開を見せていました。
 クリスチャンは、タヒチからも脱出して、数人の仲間と現地妻とともに、イギリスの海図に載っていないピトケアン島に移っていました。しかしそこも楽園ではありませんでした。
 複雑な政治折衝の結果、ブライはオーストラリアの総督に任命されます。自身では最高の昇進です。しかしその影には、クリスチャンの兄の陰謀が働いていました。ブライはそこで“第二の叛乱”に出くわすことになるのです。
 しかし、最後の最後に「残された謎」が解かれるシーンは、静かな衝撃です。なぜブライ艦長があそこまでクリスチャンに辛く当たっていたのか、その理由が明かされるのですが……
 本書は小説ですが、「あり得た過去」の一つかもしれません。そうそう、私は、弟が作った生き地獄に巻き込まれてしまった兄の運命にも共感を覚えてしまいました。家族愛の生き地獄って、あまり嬉しくないですよねえ。


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