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2016年10月29日08:34

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健全な社会

 「愚行が一切ない“潔癖”な社会」のことではなくて、「少々の愚行くらいではびくともしない(少々の愚行なら許容できる)強さを持った社会」のこと。

【ただいま読書中】『知られざる宇宙 ──海の中のタイムトラベル』フランク・シェッツィング 著、 鹿沼博史 訳、 大月書店、2007年、3800円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4272440365/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4272440365&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 「海」に関するノンフィクションですが、「これはスリラー小説だ」と著者は宣言します。
 まず「おととい」から話は始まります。おととい何があったか? ビッグバン。そしてページをめくると「きのう」が始まります。
 この短くショッキングで魅惑的なオープニングで、この分厚い本(600ページ以上)を手に取ったことは間違いではなかった、と私は確信します。
 ビッグ・バン、太陽系と地球、100万年の大豪雨、大陸移動……わずか20ページで著者は駆け抜けてしまいます。そして「進化」へ。「生命」が生まれ、細胞分裂が起き、さらに有性生殖も「進化」は覚えます。そこでバランガー氷期。地球は“アイスボール”となります(現在の議論は「地球はアイスボールになったかどうか」ではなくて「地球表面の100%が白くなったか、90%だったか」だそうです)。氷の下で生命はしぶとく生き続け、ついにエディアカラ紀の到来。海は「豊穣」の時代となります。そして次のカンブリア紀は「爆発」。もっともこの「爆発」には賛否両論あるのですが。海には三葉虫やアノマロカリスなど様々なバリエーションの生命が満ちあふれたのです。ただし、エディアカラ紀ののどかな様相とは違って、「食うか食われるか」の競争の世界でした。オルドビス紀からシルル紀に移ろうとしたとき、地球はまた寒冷化し浅い海で大絶滅が起きます。これに関しては「超新星のガンマ線バーストが原因だ」という説があるそうです。この説にも賛否両論あるのですが、私は賛成に一票。
 生命は大陸に上陸し、そこでも繁栄します。しかしペルム紀に、酸素濃度の急激な低下と同時に大絶滅が。こちらの原因はシベリアでの大噴火。陸上生物には大打撃がありましたが、海中では90%以上の種が絶滅、という壊滅的な被害が生じました。そこで爬虫類の一部が、地面から海に戻って、絶滅した大型捕食獣の地位を受け継ぐことにします。魚竜です。しかし魚竜も、1億8100万年前の大地震(アイルランド西方の海底地震。マグニチュード20! とんでもない大津波とそれに伴うメタンハイドレートの大崩壊によって海水が硫化水素に満たされたこと)によって絶滅します。
 さて、恐竜の時代が到来し、そして絶滅。この絶滅のメカニズムにも、例によって「論争」が登場します。科学者は何かで意見が一致する、ということがあまりないようです。本書でも何かイベントがあるたびに激しく行われた「論争」について紹介されていますが、「歴史」ってつまりは「論争の歴史」のことなのかもしれません。
 「鯨」が海に登場します。鯨(あるいはその祖先)は、クラゲやイカが大好きですが、それは、鯨は陸上生活の名残で淡水を飲む必要があるが、クラゲやイカは「淡水の塊」だから、という指摘は私にとっては新鮮でした。地中海が干上がり、ジブラルタル海峡が再開通して莫大な水が瀑布となって大西洋から流れ込みます。
 そしてやっと「きょう」が始まります。しかし本書はまだ1/3がすんだだけ。今からの方が長いのです。まだまだ読者はたっぷり楽しめます。しかも「きょう」は「もし月がなかったら」という仮定から始まります。そして、波、海流、生物、交通……いくらでも話題が登場し続けます。そして最後に著者はまた宇宙へ出かけてしまいます。
 「海」を時空間の観点から見ると、数億年前に平気で戻らなければなりませんし、地球の中心から宇宙にまで視野を広げる必要があります。著者のこの緻密でしかし幅広い興味を示す態度が非常に印象的です。また、「真面目」と「軽妙」、「正確さ」と「わかりやすさ」を同時に満足させることに成功している点で、著者の力がとんでもないことがよくわかります。私がもし物書きだったら、著者に嫉妬したことでしょう。


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