mixiユーザー(id:235184)

2016年10月26日07:12

233 view

サービスの品質

 この前入った蕎麦屋で、隣のテーブルのお客さんがざる蕎麦大盛りが目の前に置かれたら、数秒後に店員を呼び返していました。聞くともなく聞いていると「ワサビがない」。ざる蕎麦にワサビがないとやっぱり淋しいですよね。で、店員がすぐに引っ込んで、なぜか別の店員が小皿に載ったワサビを持ってきたのは良いのですが、「失礼しました」も「申し訳ありませんでした」もなしで「お持ちしました」だけ。これがお客の方が「ワサビを大盛りにしろ」と言ったのだったらまだわかりますが、明らかに店の側のチョンボです。コンビニ敬語のように馬鹿丁寧だったりピントの外れた敬語を使うよりも、状況に応じた応対をして欲しいものだなあ、と思いながら、私はずるずると自分の蕎麦をすするのでした。

【ただいま読書中】『ライアーズ・ポーカー ──ウォール街は巨大な幼稚園』マイケル・ルイス 著、 東江一紀 訳、 角川書店、1990年、1900円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4047911852/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4047911852&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 ソロモン・ブラザーズの会長のジョン・グッドフレンドがフロアにぶらりとやって来て、最優秀トレーダーのメリウェザーに嘘つきポーカーの勝負を挑もうとしました。一発勝負で賭け金は100万ドル。メリウェザーは鼻でせせら笑い賭け金を1000万ドルにせり上げます。ゲームが始まる前から「嘘つきポーカー」が始まっていたのでした。
 著者は1985年度にソロモンに入社しました。ソロモンが大拡張政策を採用して新人を大量採用し始めた年です(それがソロモン凋落の始まりだった時期であることもあとになってから判明します)。5箇月間の新人研修は、一種の洗脳期間でした。「金儲け」を(口には出さない)動機として会社に全身全霊を捧げるように人をプログラムすることが目的です。必ずしも成功しているとは言えませんが(著者のようにそれを批判的に記憶している人もいましたから)。
 やっと研修が終わって現場に配属された新人を待っているのは、幼稚であくどい悪戯の洗礼です。「ウォール街は、川で始まり、墓場で終わる通りだ」という古い戯れ言があるのだそうですが、実はその中間には「巨大な幼稚園」が存在しているのです。ただし、本物の幼稚園は“無邪気”の集団ですが、ウォール街の「巨大な幼稚園」は“邪気”や“邪鬼”の集団でした。自由ででたらめで意地悪で無頓着で悪戯好きな連中ばかりだったので「人間らしい人」は本当にごく少数だけでした。そういった人たちが何億ドル何兆ドルを動かしていたのです。
 著者が入社した頃ソロモンで“最上位”に位置するのは「モーゲージ部」でした。住宅ローンを債権化して売買する部門です。部門が形としてできたのは1978年。最初は債券部門の鬼っ子扱いでしたが、79年に連邦準備銀行が金利を上げたため住宅資金貸し付けのシステムが危機的状況になりそれを救うために租税特別措置法案が可決されたことでモーゲージ部は鬼っ子から“専制君主”になりました。売り手は千人いるのに買い手は一人だけ、つまりソロモンのモーゲージ部門しかなかったので、好き放題できたのです。客の選択肢は二つ、「ソロモンに巨額を強奪される」と「倒産する」だけ。やがて状況が変わって好き放題ができにくくなると、そのころ債券部門に大量に採用されるようになっていたMBA所持者や数学者が、様々な工夫をするようになります。これがのちの「サブプライムローン(とその大惨禍)」を生み出すことになるんですね。
 研修が済んだ著者はロンドン支社に配属され、「下等動物(=新人、見習い)」として働き始めます。先輩からカモにされ、著者は客をカモにしながら、セールスマンとして腕を上げていきます。それにしても「数百万ドルの取り引き」が「下等動物用のごみのような小さな取り引き」で、それで客に損をさせても「どうせ客はすぐに忘れる」なのですから、私の世界の常識とは全然違う世界なんですね。そして1年も経たないうちに著者は「凄腕」と社内で呼ばれるようになっていきます。
 本書は「汚い金儲けの手口の具体的な解説書」として読むことが可能ですが、私は「無知な人間が、“知識を得ること”によって汚い手口を平気で駆使する人間に“成長”していく物語」としても読みましたし、同時に「資本主義社会が、必要な人材をいかに調達しているかの社会システムの物語」としても読みました。ということは、資本主義社会の中に生きている私にとって本書で描かれている人びとの姿は「私の物語」でもあります。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年10月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031