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2016年09月14日06:52

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移動でへとへと

 バベルの塔がもし完成していたら、最上階までどうやって行く気だったんでしょう? エレベーターがなかったら徒歩……途中に何軒宿屋が必要かな?
 そういえば最近あちこちにできているイオンモールのような大規模ショッピングセンターは、かつてのデパートが何軒か並んでそのまま横倒しになったような広さで、水平方向への移動に何か乗り物が欲しくなることがあります。さすがに宿屋はいりませんが。

【ただいま読書中】『金持ちは、なぜ高いところに住むのか ──近代都市はエレベーターが作った』アンドレアス・ベルナルド 著、 井上周平・井上みどり 訳、 柏書房、2016年、2800円(税別)
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 エレベーターは1850年代にニューヨークに登場し、すぐにアメリカ東海岸の大きなホテルでは標準装備となりました。1870年には高層オフィスビルでも使われるようになります。1875年頃、ニューヨークに立ち並ぶ11階建ての保険会社や新聞社などのビル群は「エレベーター・ビル」と呼ばれました。しかしヨーロッパではエレベーターの普及はずいぶん遅れました。アメリカではエレベーターを中心にしてビルが建築されましたが、ヨーロッパではすでにあるビルの吹き抜けに後付けで工事された、という建築事情の違いが大きかったのかもしれません。
 水力エレベーターは18階〜20階が限界で、それがビルの高さの限界を規定しました。しかし電気エレベーターと鉄骨構造の建築技術により、50階建てが理論的に可能になります。つまりエレベーターによって都市の景観が変わったのです。
 エレベーターは1854年ニューヨークの万国博覧会でデビューしました。その1年前にエレベーター会社を設立していたイライシャ・グレイヴス・オーティス(オーチス)は全然エレベーターが売れなかったため、万博で派手なパフォーマンス(15mの高さに自分が乗った台を上昇させたところでロープを切断して数センチ落ちたところで安全装置で停止する)をしてみせます。これが「エレベーターの歴史」の始まりなのだそうですが、実はこのエピソードは「神話」となっていて、事実の“編集”が行われているのだそうです。実際に「オーティスのエレベーター」が登場するずっと前から、あちこちでエレベーターは使われていたのです。
 建築を大きく変えたのは「エレベーターシャフト」を中心に建物を構成する、という「思想」でした。それまでの階段中心の発想では、建物を適当に増築してそれを階段で結ぶことが可能です。中二階とか中途半端な存在が許される、つまり「統一された『階』」はなくても構いません。日本でも古い旅館などで増築を繰り返していて、中を移動するうちに自分が何階にいるのかわからなくなることがあります。しかし建物の中心にエレベーターがあったら「そこが何階かわからない」はあり得ません。そして、エレベーターを降りたら「見通しの良さ」が建物には求められました。建築に「直線」が持ち込まれたのです。それとほぼ同時に、都市計画では「真っ直ぐな川筋」「真っ直ぐな大通り」が求められるようになりました。こういった「直線」は「分離」「分断」ももたらしました。
 エレベーター“以前”に、高層住宅の高層階は下層階級民のためのものでした(住居版の「天井桟敷」だったのでしょうか。それと、一般住宅での「屋根裏部屋」は現在でも「下層の空間」扱いです)。しかし20世紀にエレベーターが定着すると、社会の上下関係と建物の上下関係が一致するようになります(現在ホテルの良い部屋は上の方にありますね)。
 こういった「直線」「住居内での上下関係」といった重要な社会変化は、アメリカが先行し、ヨーロッパは数十年遅れて追随します。
 私から見たら、高層建築へのエレベーター導入は「平等」を持ち込むはずですが(妊婦・老人・足が弱った人たちが低層階以外にも住めるようになる)、社会に「平等」概念が普及しないと建物には「上下」が持ち込まれるだけのようです。
 初期のエレベーターの“操縦”は“専門職”が行うものでした。それは技術的な理由かもしれませんが、「御者」や「運転手」が「使用人の仕事(ご主人様が自ら行うべきものではない種類の仕事)」だったことの反映かもしれません。技術的な面での最大のものが「止めること」でした。厳密に言うと「目的の位置にぴたっと止める」です。最大速度を出したエレベーターを目的の階の床の位置にぴたりと停止させるためには、熟練が必要でした。自動制御装置が出現してしばらくは、賃貸住宅でだけ使用されました。限定された人だったら安心、ということだったのでしょう。何が安心なのかはわかりませんが、やがてホテルや公共施設でも「公的な有資格者以外」にエレベーターの操作が認められるようになります。かつては「エレベーターの操作員」は「操作」だけではなくて「整備」も担当していましたが、整備は裏方に任されるようになります。
 普及期には「女性専用エレベーター」「夜間は停止」「エレベーター病」など面白いものごとが出現しています。それぞれ立派な理由はあるのでしょうが、「それ」が受け入れられた「社会」がどんなものだったのか、私は想像をたくましくしてしまいます。また「押しボタン」に関する面白い考察も楽しめます。


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