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2016年07月09日07:29

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社長さん

 日本では「課長」とか「社長」とか、役職名で相手を呼ぶ風習があります。これは相手のが「個人」ではなくて「役職」である、という意味かと私は思っていたのですが、最近逆かもしれない、と思うようになりました。昔の日本だったら同族が地域にやたらといますから、名字で呼ぶと区別がつかないし、名前も幼名や成人名や雅号などやたらとあるからどれで呼ぶのが最善かわかりにくいところがあります。しかし役職だったら「その人一人」だけ。
 つまり、日本の古い環境だったら、役職で呼ぶことが個人を重視する態度、ということだったのかもしれません。

【ただいま読書中】『アスピリン企業戦争 ──薬の王様100年の軌跡』チャールズ・C・マン/マーク・L・プラマー 著、 平澤正雄 訳、 ダイヤモンド社、1994年、2816円(税別)
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 産業革命が進行し、ビスマルクが「ドイツ」を統一しようとしていた時代、ドイツには世界で最良の科学教育システムがありました。特に有機化学の面ではドイツは世界を牽引していたのです。そういった科学技術者の中にカール・ドゥイスパーという人がいました。彼は傾きかけていた染料会社バイエル社に入社、たちまち染料と医薬品で会社を大発展させます。やがてバイエル社から世界的なヒット商品が生まれました。「ヘロイン」と「アスピリン」です。どちらも大成功。ドゥイスパーは巨大市場アメリカに目を向けます。関税で輸出アスピリンは割高になっていました。だったら工場を進出させよう、と1903年にドゥイスパーは渡米します。アメリカではなぜか特許が取れ(他の国では認められませんでした)バイエルは大儲けをします。しかし当時のアメリカの医師は「商品名(アスピリン)」ではなくて「化学名(アセチルサリチル酸)」で処方する習慣で、そこに「商品名」で売り込みをかけるバイエル社の商法は反発も招いていました。無知な患者が薬をリクエストするとはおこがましい、とでも当時のアメリカの医師たちは思っていたのでしょうか。
 第一次世界大戦が始まり、「敵国人」の財産(特許権や商標も含む)はすべて没収されます。国益や私益を踏まえたややこしい折衝が行われ、結局「アメリカのバイエル」と「ドイツのバイエル」の二つの会社が誕生してしまいます。この“二つのバイエル”の丁々発止のやり取りのややこしさに、読んでいて私は頭を抱えてしまいます。当事者は賭けているものが大きいから大変だったでしょう。
 そして、ナチスの台頭。バイエルが属する企業グループIGは、石炭からの合成ガソリンに巨額の投資をした瞬間に中東で油田が発見されてとても苦しい立場となり、ドイツ政府からの援助をアテにしていました。当然公然とは逆らえません。しかし、ひそかに株をアメリカに移転して財産保全をしようとしたり、あるいはドイツのバイエルが支配している南米のアスピリン市場をアメリカのものに見せかけようと画策したり、いろいろ“抵抗”をしています。当時のバイエルは「グローバル企業」の先祖みたいなものですが、それでも「国家」よりも「自分たちの利益」の方を優先する態度を見せているのが示唆的です。今のグローバル企業は国境を軽々と越えてもっと巧妙に大規模にやっているのだろうな、と私には思えます。
 会社同士の戦いも激烈ですが、政府と会社の戦いも激烈です。19世紀〜20世紀初めには「消費者保護」「虚偽広告の禁止」という概念がアメリカにはありませんでした。「ラベル(成分表)」が正確に書いてあったら、たとえその薬がたとえば「万病に効く」と謳ってもOKだったのです(極端なことを言えば「この瓶の中には毒が入っています」と書いてあってその表記が正確だったら(本当に毒が入っていたら)、それを売っても良いことになりますし、実際にそのような内容の判決が出ています。「消費者は自分の頭で正確に判断できる」がアメリカの“テーゼ”でした)。しかし、連邦取引委員会が創設され「広告監視」を担当するようになって少しずつ事情が変わります。ただし連邦取引委員会には、科学の専門家がいませんでした。FDA(食品医薬品局)には専門家が揃っていたから、両者が協力したらゴロツキ業界には脅威になっていたはずです。ところがこの二つの役所は、協力ではなくて、なわばり争いに精を出していました。
 ニクソンやラルフ・ネーダーといった名前が登場するあたりから、虚偽広告に対する政府の戦いは激しくなります。役所も本気であることを示さなくてはならなくなり、企業相手の訴訟が相次ぐことになります。なにしろ「我が社の○○(主成分はアスピリン)は他社の××(主成分はアスピリン)より格段に優れている」という広告をどの会社も打っていたのですから、両社がやっていた場合、そのどちらか(あるいは両方)が虚偽広告ですよね。
 長い長い訴訟合戦が続きますが、そのうちにアスピリン以外の鎮痛剤が次々登場します。「アスピリンの時代」は終わったかのように見えましたが……
 実はここから、アスピリンに新しい薬効が見つかったりの長い長いお話があるのですが、それは本書をお楽しみください。アスピリンは実に古い薬ですが、もしかしたら「アスピリン・エイジ」は、アメリカから全世界に舞台を広げて現在も継続中なのかもしれません。


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