mixiユーザー(id:235184)

2016年06月23日06:59

239 view

精神論の根拠

 精神論を強く主張する人の主張の弱点は、エビデンス(根拠)と具体的な方法論についての言及が極めて薄弱なことと、成功率が何%かの実績の提示(「○ニュートンの力で殴ったら競技成績が×%向上する」とか、のデータ)がないことです。

【ただいま読書中】『「野球移民」を生みだす人びと ──ドミニカ共和国とアメリカにまたがる扶養義務のネットワーク』窪田暁 著、 清水弘文堂書房、2016年、4300円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4879506214/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4879506214&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 世界がグローバル化するに従い、1年のほとんどを外国で過ごしたり国籍を変えるプロスポーツ選手が珍しくなくなりました。これを「スポーツ移民」と呼ぶそうです。
 ドミニカでは野球(現地の言葉でペロータ)が盛んで、昨シーズン終了時にアメリカ大リーグの選手のなんと11%(138人)がドミニカ出身です。本書ではそれを「野球移民」と呼びます。
 ドミニカに野球を持ち込んだのはキューバ人でした。野球はドミニカで人気のスポーツとなり、1910年に最初のプロ球団が、21年にプロリーグが誕生します。59年にキューバで社会主義政権が樹立されるとアメリカは国交断絶。正式なルートで選手を獲得できなくなった大リーグは、ドミニカにも関心を示すようになります。77年にはトロント・ブルージェイズが現地で若者をじっくり観察するための施設(のちの「アカデミー」)を建設します。現在大リーグの全球団と広島東洋カープがドミニカにアカデミーを置いています。これによりドミニカ出身の大リーガーがどんと増えました(ちなみに隣国のハイチはフランス支配だったせいでサッカーが盛んなのだそうです)。アカデミーは「アメリカ」がそのままドミニカに持ち込まれているように見えますが、そこにはドミニカの人や社会や文化が濃厚に投影され、「野球移民を生み出すシステム」として根付いています。
 メジャーで成功した選手は、贅沢な暮らしをしますが、同時に故郷への還元もおこないます。その姿を見て子供たちは「成功」に憧れ野球に打ち込みます。
 ドミニカの社会には「拡大家族」という概念があります。複数の女性との間に子供をもうけた男はそれぞれに「ミルク代」を払い、複数の男性との間に子供を得た女性は異なる父親からの「ミルク代」で家計をやりくりする、というやり方です。ドミニカの貧困層では届出による「結婚」ではなくて「コン・クビーノ(同居)」で婚姻関係が成立します。要は同棲ですね。子供は母親の所に留まることが多いので、必然的に「母親を中心とした拡大家族」が成立しやすくなります。これは貧困の拡大にもつながりそうですが、そこを救うのが「ディア・ア・ディア(日々の助け合い)」や「フンタ(労働交換)」といった水平的な相互扶助システムと垂直的な扶養義務システムの「クーニャ(保護)」です。著者は「異なる父親の子供を育てている母親」を「複数のパトロンに扶養義務を要求している」と言えることに気づきます。これはリスクの分散とも言えます。そしてその集団的な扶養システムは、移民によっても支えられています。主にアメリカに移民した人びとは故郷に送金をするのが当然とされています。たまに帰国するときには山ほど土産を持ち込みますが、故郷の人びとはそれをもらうのが当然といった振る舞いをします。ややこしいのは、ドミニカ社会では「富の独占を許さない」と「たかりは恥」の二重規範が機能しているため、「(催促されなくても)気前よく散財する」が伝統的な価値観となっていることです(ただし誰にどのくらい配るかは関係性で決定されるので、上手くやらないと陰口をたたかれます。また(麻薬売買などでの)“汚い金”は軽蔑をされます)。「野球移民」はそういった社会の中で成立しています。それまでの移民が月に100ドルの送金でもありがたいと思ってもらえたのに、大リーガーになったらとんでもない高額の報酬を得ることができます。それによってドミニカのペロータ(野球)は「ビッグ・ビジネス」になったのです。
 日本で野球がアマチュアを含めて「ビッグ・ビジネス」であることを私は思います。ドミニカにはドミニカのペロータが「ドミニカ社会」の中に確固として存在していました。たぶん日本社会の中にもその文化の特殊性の一部として「野球」が存在しているのでしょう。その特殊性は“外”から見ないとわかりにくいのかもしれませんが。


1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年06月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930