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2016年05月22日11:58

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アングルやブック

 プロレスラーのハルク・ホーガンといったら、ムキムキの肉体にレッグドロップとアックス・ボンバー。猪木を失神させたあの一撃を私は幸運なことにテレビで目撃しています。しかしそのとき、ハルク・ホーガンは「やったぜ!」ではなくて、なぜか戸惑っているように見えました。「イノキさん、ここは気絶するところじゃないでしょう?」と。
 プロレスが「真剣勝負(相手の肉体の破壊行為)」ではなくて「エンターテインメント」であることを私が察した初めての出来ごとでした。ただし、肉体のぶつかり合いは“本物”ですが、リング外での抗争劇とか試合の進行にある程度の段取りがあり、それらが「アングル」とか「ブック」と呼ばれることを知ったのは21世紀になってからのことです(大体本当に抗争があったら、それをテレビカメラの前ではやらないでしょう)。いくら段取りがあっても、200kgを持ち上げたら背筋を痛めるでしょうし、2mの高さから腹ばいにリングにダイブしたら痛いんですけどね。

【ただいま読書中】『わが人生の転落』ハルク・ホーガン&マーク・ダゴスティーノ 著、 INFINI JAPAN PROJECT LTD. 訳、 双葉社、2010年、2000円(税別)
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 ハルク・ホーガンは“スター”でした。しかし2007年12月、彼は自宅のバスルームで実弾を込めたピストルの銃口を咥えていました。人生のどん底にいたのです。そこからかろうじて這い上がったとき、彼はこれまでの浮き沈みの激しかった人生を思い起こします。
 体がでかくでか頭でのろまだった少年は、それでも野球やアメフトで才能を認められます。しかし体育会系の雰囲気になじめず少年は数学と音楽とキリスト教に走ります。おっと、プロレスの熱心なファンでもありました。本人は暴力は嫌いだったのですが(本気で殴ると相手を壊してしまうからです)。有能な港湾労働者となり、地元で売れ始めたラッカスというバンドではベーシストとして客を煽るテクニックを磨いた青年は、客席にプロレスラーが何人もいることに気づきます。彼らと付き合いプロレスが単なる殴り合いではなくて「仕事」であることに気づき、バンドをやめてプロレスに入門することにします。自分には大スターになれる素質がある、という自信があったのです。その自信を理解していたのは彼だけだったのですが。
 いじめに耐え、通過儀礼を通過し、どさ回りで苦労をし、搾取をされ、それでも「(超人ハルクの)ハルク」という名前に出会い、肉体を作り上げ、青年は有望なプロレスラーになっていきます(もっともその途中で「もう、やーめた」もあるのですが)。ついにWWFの大物興行師ビンス・マクマホン・シニア(現在のWWEオーナー、ビンス・マクマホン(ジュニア)の父親)の目に留まり「ハルク・ホーガン」が誕生します。“仕事”は、ヒール(悪役)でアンドレ・ザ・ジャイアントの“ライバル”。人気は高まり、映画「ロッキー3」出演のオファーが。ところがそれで原因でWWFを退団。ホーガンは日本で至福の日々を過ごしますが、ホームシックになったのか、アメリカに戻ってAWAに参加します。ところが映画の影響で、もうヒールではやっていけなくなってしまいました。「ヒール」であることを許さない、熱狂的なファン(ハルカマニア)がついてしまったのです。そこにマクマホン(ジュニア)が声をかけます。プロレスは旧来の枠を越えてワールドワイドのエンターテインメントに育つはずだ、ということで二人の意見は一致。1984年に「全米制覇」を目標にビンスとの“タッグ”を結成。翌年には第1回レッスルマニア(WWF(現WWE)の年に1回の特番)が開催されます。しかしステロイド使用が非合法化され、ビンスたちは裁判に巻き込まれます。裁判では無罪となるも、二人の仲は悪くなり、ホーガンはまたもや引退。しかし、不動産取得に夢中の妻リンダの望みを叶えるために金を稼ごうとこんどはWCWに所属することになります。そこでは、裁判でついたダークイメージを逆用して、ヒールとして大成功。WCWはWWFを上回る勢いとなります。ところがWCWはWWFに身売り。ホーガンは本人の思惑は全く無視されて、出戻りとなってしまったのです。久しぶりのWWFは様変わりしていました。台本の重要度が増し、“ストーリー”がレスラーを支配していました。しかしホーガンは「もっと柔軟な態度で、客の声を聞け」と客を煽るレスリングをおこない、ファンからのとんでもない熱狂を受け、またもやベビーフェイス(ヒールに対抗する善玉役)に戻ってしまったのでした。
 実はこの時のロックとの試合を私はテレビで見ています。「昔の人」であるはずのホーガンが、ちゃんと「レスリング」をしていて、それにファンが熱狂している光景に、私は感心してしまいました。「プロレス」を皆が真剣に楽しんでいる、と。ホーガンの家族もそろってリアリティー番組に出演し、一家は「セレブ」になります。しかしホーガンは「リアリティー番組」の「リアリティーさ」にも実は演出があることを平気でばらしているのですが、契約に守秘義務はなかったのかな? テレビ画面では絵に描いたような幸せな一家ですが、現実は家族崩壊が進行していました。離婚が少しずつ現実のものとなりつつあり、息子は交通事故で親友に瀕死の重傷を負わせて巨額の訴訟を起こされ、そして体はもうぼろぼろ。相談をした離婚弁護士は「あなたは奥さんから言葉による虐待を受けている」と喝破します。ハルク・ホーガンが、虐待を受けいていた? 本人は呆然とします。そして、冒頭の真剣に自殺を考えているシーンへ。彼を救ったのは、偶然の電話でした。
 ハルク・ホーガンに言わせたら、ミッキー・ローク主演の映画「レスラー」はやや退屈なテレビ番組程度で、実際のレスラーの生活はもっとエキサイティングなものだそうです。本人が言うのだからたぶんそうなんでしょうね。


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