mixiユーザー(id:235184)

2016年05月07日06:51

215 view

ヒットとホームラン

 ヒット曲があるのなら、ホームラン曲もあるのでしょうか?

【ただいま読書中】『ヴェテラン』海老沢泰久 著、 文藝春秋、1992年、1165円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4167414082/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4167414082&linkCode=as2&tag=m0kada-22
目次:「嫌われた男(西本聖)」「成功者(平野謙)」「指名打者(石嶺和彦)」「十年の夢(牛島和彦)」「ヴェテラン(古屋英夫)」「秋の憂鬱(高橋慶彦)」
 スポーツ雑誌「Number」に掲載された作品をまとめたものです。
 目次を見ただけで「懐かしい名前が並んでいる」と思います。で、出版年を見て、これらの選手はまだ現役でやっているのだな、とも思って、月日の流れに一瞬身を浸してしまいます。
 松山商業でエースで3番だった西本は県大会の準々決勝で負けた翌日から一人で練習をしていました。どこに行くのであれ、これからも野球をするつもりなので、とにかく練習を続けるしかない、と腹をくくっていたのです。その態度はドラフト外で讀賣ジャイアンツに入団してからも貫きました。結果は、チーム内での孤立でした。練習日は誰よりも練習をし、休日も遊びに付き合わずに練習をしていたからです。ここで描かれる「ジャイアンツ内部の雰囲気」は、なんだかとてもイヤな感じです。「ジャイアンツの選手であること」を鼻にかけて“異分子”をとにかく排除しようとする態度(だから、ジャイアンツにトレードでやって来た他のチームのヴェテランたちはとても辛い思いをするそうです)によって、西本も孤立してしまいます。それも徹底的に。小説だったらそこから「孤独なヒーローの逆襲劇」が始まるかもしれませんが、これはノンフィクション。西本は中日ドラゴンズに追い出されるようにトレードされ、そこで見たのは……
 日本野球は讀賣ジャイアンツを「中心」として回っていました(今でも回っているのかもしれませんが)。しかし著者は「野球」を自分の視点の「中心」に据えています。だからでしょう、「ジャイアンツ礼賛」よりはむしろ批判的な言説がちらほら登場しています。牛島がドラフト指名されるときのジャイアンツのスカウトの言動など、「あり得るな」と自然に思わされるものです。
 本書にはしきりに「生意気な奴」という言葉が登場します。「マイウェイ」を行く、あるいは行こうとする人は周囲から「生意気な奴」と非難され、いじめられます。だけど、他人と同じことをやって他人と同じ成績だったら、一軍には行けません。その場合には実績が重視されますから。だったら他人より優れた成績を出すためには、それぞれの人に合ったベストのトレーニング法が必要になるはずですが……それがわからない選手やコーチがやたらと多い、というのは、日本野球の大きな問題点でしょう。というか、日本のスポーツ界全体の問題点なのでしょうね。で、そういったいじめに負けずに頭角を現した人間が一軍に定着し、最後には「ヴェテラン」と呼ばれることになるわけですが、その「いじめに負けないために使ったエネルギー」をトレーニングに向けることができていたら、その人はもっとすごい選手になっていたんじゃないです? それと、特定の選手を「思い知らせてやる」といじめることに熱中する側も、チームの勝利や優勝の方が重要なことだとは思わないのかな?
 本書は「ヴェテラン選手の人生(栄光と挫折と再生)の物語」です。そして、同時に、前段落に書いたような「日本のスポーツ界(あるいは日本そのもの)が抱える問題」の提示もされています。著者の視線には鋭いものがあります。もしかしたら著者自身も周囲からは「生意気な奴」と扱われているかもしれませんけれど。


0 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年05月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031