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2016年04月16日06:58

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 雨傘は人を雨から守ります。日傘は人を紫外線から守ります。では、核の傘は誰を何からどうやって守るものでしたっけ?

【ただいま読書中】『銀の匙』中勘助 著、 ポプラ社(ポプラポケット文庫)、2016年、650円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/459114786X/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=459114786X&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 虚弱体質で人見知りの少年。母は産後の肥立ちが悪く、いつも「伯母さん」の背中に負ぶわれていて、五つくらいまでは土を踏んだ覚えがほとんどない、という過保護な育てられかたをしています。神田の下町で腕白どもにからかわれたり意地悪をされていましたが、やがて小石川の高台に引っ越し、そこで落ちついた生活となります。
 小さな子供が食べるおやつや家の中でおこなう遊びが細々と描写されます。なんていうこともない、ごく普通の生活の描写なのですが、それがしっとりとこちらの心に届きます。たとえばこんな文章があります。

》三、四十坪ほどの裏のあき地はなかば花壇に、なかば畑になっていた。夏のはじめのころになれば垣根のそとを苗売りがすずしい声をしてとおる。伯母さんはそれを呼んで野菜ものの苗をかう。藁でこしらえた箱のなかにしっとりと水けをふくんだ細かい土がはいって、いろいろな苗がいきいきと二葉をだしている。菅笠をかぶった苗売りの男がさもだいじそうにそれをすくいだす。

 特に技巧を凝らしたわけではない文章ですが、その情景が本当に細やかに描写されています。文体とその内容とがみごとに調和していることに私は感心します。当時の生活が言葉によってそっくり現代に移植されているように感じられるのです。
 泉鏡花が「硬質な美文」だとしたら、中勘助のは「ソフトな美文」と言えるかもしれません。明治の末にこんな素直な文章が書けたとは、すごいことだと思います。


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