mixiユーザー(id:235184)

2016年04月09日07:16

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「一つ訊いても良いでしょうか?」

 そう訊くことで「一つ」はすでに消費されていません? そういえばこれと似たのに「(話しかけることで)お邪魔してもよろしいでしょうか?」というのもありますね。そう話しかけることですでに邪魔をしているわけ。

【ただいま読書中】『図書館の魔女(上)』高田大介 著、 講談社、2013年、2400円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062182025/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4062182025&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 「先生」の下で炭焼きなどの修業をしていた少年キリヒトは、「お前の仕事はここにある」という先生の命令で「一ノ谷」の王都にそびえる「高い塔」に連れてこられます。そこは世界最古の図書館。君臨するのは、マツリカという“魔女”。しかしキリヒトは文字が読めません。それで図書館の業務をしろと?
 時制や「てにをは」にちょっと甘いところがある文章が最初は気になりましたが、その違和感が、本書の舞台となっている異世界の雰囲気を盛り上げるのにも役立っています。これは著者の計算の内なのかな?
 マツリカは、先代の後を継いだばかりの少女でした。彼女は発声ができません。手話と指文字と指を鳴らす音でコミュニケーションをします。図書館に収載された本の内容は常人を越えたレベルで把握しているが言葉を発することができない少女と、文字を読むことができない少年とが出会ったのです。この二人の最初の“会話”に「文字はことばではない」「本は世界の一部を切り取ったもの」「図書館は一冊の本である」なんてこちらがびっくりするお題が登場します。本書はたぶんファンタジーに属するのでしょうが、そのバックグラウンドには「ことば(音声言語、書き言葉、手話など)」「本」そして「図書館」が重要なテーマとして散りばめられています。
 キリヒトには、感覚的に世界を把握するという特技がありました。音や雰囲気などから統合的に周囲を把握できる、つまり“後ろにも眼がある”のです。その鋭敏な感覚に注目したマツリカは、二人だけに通じる手話を開発することにします。楽師が楽器を弾くように、自分の意志をキリヒトに伝えてリアルタイムでの同時通訳をさせよう、という試みです。
 「一ノ谷」では、王と議会が微妙なバランスを保っていました。そして一ノ谷自体が、他の領邦のバランスを保つ機能を果たすことで覇権を維持していました。すべては「バランス」です。しかし、長い平和の間に、少しずつバランスを失わせる動きが始まっていました。図書館は、すべてのバランスを取る秘密の中枢でしたが、そこにバランスを失調させるむき出しの暴力が迫ります。マツリカの命が風前の灯火となったとき、キリヒトが実は切人であることが明かされます。


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