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2016年04月05日06:47

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反トルク

 ヘリコプターはメインローターだけだとローターの反トルクで機体がローターの逆回転をしてしまいます。だからもう一つ小さなローターをつけて反トルクを打ち消すようにしています(専門用語は知らないので一般日本語で表現しています)。ところが単発プロペラ機(第二次世界大戦中の隼のような戦闘機とか、最近のだったらセスナ機とか)では、プロペラは一つだけ。となると、素直に考えたら反トルクを「機体」で吸収していることになります。しかもエンジン出力に応じて反トルク量を加減する必要があります。いや、一体どんな“手品”を使ったんだ、と思いますが、きちんと飛んでいる(それどころか、戦闘さえ行えている)わけですから、ちゃんとできているんですよね。……だったらヘリでもシングルローターでなんとかならないのでしょうか?

【ただいま読書中】『ぼくは科学の力で世界を変えることに決めた』ジャック・アンドレイカ、マシュー・リシアック 著、 中里京子 訳、 講談社、2015年、1600円(税別)
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 14歳のジャックは、切羽詰まっていました。何年間もいじめやうつ病と闘い、後ろ盾だったおじさんが亡くなり、やっと見つけた重大なテーマ「血液一滴で早期の膵臓癌を簡単に発見する」アイデアも、科学者たちの興味を惹きません。静かで迫力のあるオープニングです。
 ジャックの2歳上の兄ルークは、天才肌の少年だったようです。ジャックは兄を打ち負かそうと夢中になりますが、なかなかその望みは叶えられません。そのうちジャックは自分が夢中に慣れるものを見つけます。「堰堤」と「数学」です。小学生の趣味としてはちょっと変わっているかな? しかしこの二つは、ジャックの興味を「科学」へと導きます。しかし、兄と二人で地下室でそれぞれの実験をしていて、近所中を停電させてしまうとは、いったいどんな実験だったんでしょうねえ。
 6年生になって完璧なガールフレンドもでき、親友もでき、初めて参加した郡のサイエンスフェアで「溺死マシンは止められるか?」という研究(堰堤で致死的な渦が水面下に発生して人を溺死させるのを、どうやったら予防できるか)を発表し、総合優勝を勝ち取ります。順風満帆の少年時代のように見えますが、ジャックは違和感を感じ始めます。自分自身に何か間違ったところがある、と。7年生になったときジャックは自分が同性愛者であることを自覚し始めます。しかしそれは受け入れられない現実でした。彼はサイエンスに熱中します。次の研究ターゲットは、水質汚染。チェサピーク湾の汚染に対してなにかできないか、と、微生物で微量の汚染物質を検出する研究を始めます。兄のルークと全国レベルのサイエンスフェアに参加、ジャックは中学生部門で優勝、やはり水質浄化に取り組んだルークの研究は総合優勝。ISEF(インテル国際学生科学技術フェア)への参加資格を得られたのです。兄のお供でISEFに参加したジャックはそのあまりのレベルの高さに興奮します(ちなみにルークは計9万6000ドルの賞金を得ています)。そこで最優秀賞を得たエイミー・チャオ(16歳)の「光のエネルギーを使ってがん細胞を殺す薬(半導体ナノ粒子)を活性化させる研究」にジャックは非常に強い感銘を受けます。“新しいヒーロー”を見つけたのです。
 サイエンスフェアでの成功により、ジャックは中学校で孤立することになりました。さらにゲイであることも知られるようになります。いじめが始まります。そして、両親に次いで、もしかしたら両親以上にジャックの理解者であったテッドおじさんが膵臓癌だということがわかります。
 ジャックはカミングアウトをします。その結果は、学校でのいじめがひどくなっただけでした(教師も加わるようになりました)。テッドおじさんが亡くなり、いじめはさらにひどくなり、ジャックは衝動的に自殺未遂をします。学校はますますジャックを問題視します。
 中学生には重すぎる人生の課題です。周囲に問題視されるゲイであることや飛び抜けて優秀な人間であること、それを「他人がどう思っても、これが『自分』だ」と受け入れる必要があります。さらにテッドおじさんの死も。ジャックは検索窓に打ち込みます。「膵臓とは」と。それを理解したら次は「膵臓癌とは」。ジャックは膵臓癌の1年生存率が20%、5年生存率がわずか6%であることを知ります。その原因は、早期発見が難しいこと。
 ジャックは新たなミッションを発見します。しかし、困難はそこから始まります。調べたい蛋白質のマーカーは8000種類。地道に調べていたら100年はかかるかもしれません。しかしジャックはすでに14年間を“無駄”にしているのです(実際には研究の基礎を構築していたんですけどね)。
 ハイスクールの生活に慣れながら(少なくともランチは、中学校のトイレ飯ではなくて、高校ではカフェテリアで摂ることができるようになりました)、ジャックは辛抱強く研究を続けます。アウトドア好きの彼にとっては苦行のような日々です。参照したい科学論文はほとんどが有料です。これは両親にも負担をかけます。やっとジャックは「メソテリン」という蛋白質マーカーに出会います。「何を検出するべきか」の問題が解決しました。ということで科学のいつもの「ひとつの問題が解決したら次の問題が発生する」です。次の問題は「メソテリンをどうやって簡便に安価に検出するか」です。生物の授業の最中にこっそり読んでいた科学論文で扱われていた「単層カーボンナノチューブ」と授業に登場した「抗体」とがジャックの脳内で突然結合します。ユウレカ!
 理論は理論。それを現実化するためには現実の研究室が必要です。ジャックは200人近い膵臓癌の専門家に詳細な研究計画をメールで送ります。しかし帰ってくるのは、拒否、拒否、そして拒否。1箇月間で192通の拒否メールが届き、193通目が……
 ジャックが15歳で参加したISEFには、なんと原子炉を作った子もいたそうですが……『理系の子 ──高校生科学オリンピックの青春』(ジュディ・ダットン)で描かれた時のISEFかな? たしかここには核融合炉が登場していましたから。ここでの授賞式での写真はイカしたものですが、そこでジャックが聞かされた言葉が実に印象的です。ジャックは、自分の人生を取り戻しただけではなくて、多くの他人の人生も取り戻す手助けができた(これからできる)のです。もっとも、ISEFのメディア担当は人生の一部を破壊されたかもしれません。なにしろ、これまでにないことに、メディアからの取材申し込みが殺到したのですから。それも数千!
 ジャックは“成功”に満足して足を止めたりしません。“次のプロジェクト”に、私は呆然とします。10万ドルのラマン分光計の、強力なレーザーをレーザーポインターに、光検出器(液体窒素で冷却)をiPhoneのカメラに替えたら、15ドルでできるよ、という提案なのですから。さらにその次は、ペットボトルを使った安価な浄水システム。出来上がる“製品”はそれぞれ違っていますが、“ポリシー”は一貫しています。それは“ジャックのポリシー”だからでしょう。「ほとんどの人と違う(マイノリティーである)」ことには、地球にとって大きな価値があるようです。


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