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2016年04月01日22:06

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安全神話

 事故が続く限り、「安全」は「現実」ではなくて「神話」のままのようです。

【ただいま読書中】『空襲葬送曲』(海野十三全集第1巻)海野十三 著、 三一書房、1990年
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 昭和7年の作品です。
 中国での戦争は長期化し、日本はアメリカに宣戦布告をした、という設定ですが、単なる架空戦記ではありません。“あの時代”にここまで描くことができるのか、という限界に挑戦した作品でもあります。
 日本は潜水艦隊をアメリカ西海岸に派遣、損害は受けつつもアメリカ艦隊に大打撃を与えます。対してアメリカは、フィリピンから日本空襲を企てます。当時の飛行機では飛距離が足りない(もし届いても帰れない)はずですが、「空中給油機」という新兵器によってこの空襲を可能にしたのです。目標は、帝都。
 灯火管制で東京は真っ暗となります。秩序正しく動く人びともいますが、デマを飛ばし不安を煽る人びともいます。
 爆撃が始まります。投下されるのは、通常爆弾だけではなくて、ホスゲンのガス爆弾も混じっています。さらにJOAKの周波数に合わせて爆撃機からラジオ放送が始まります。流されるのは、ショパンの葬送行進曲。毒ガスと爆弾と焼夷弾による火災に追われて逃げ惑う人びとは、お互いを踏みつけ殺し合います。関東大震災の時を上回るパニックというか、暴動が起きてしまいます。「××人が本当に暴れ出したぞ」というデマも流布されますが、これは明らかに関東大震災の時のデマを踏まえた記述です。「本当に」は「こんどは本当に」の意味でしょう。この時期には、関東大震災の記憶はまだ生身に刻まれていたようです。
 一夜明け、大きく破壊された帝都で、活動を始めた人びとがいました。
 本書は「これはあくまで娯楽作品です」の路線を貫きます。江戸川乱歩の探偵もののテイストもしっかり盛り込まれ、帝都の惨状に眉をひそめつつ、謎解きの要素も読者は楽しめるようになっています。
 5トンの爆弾で滅茶苦茶になった帝都ですが、もちろん全滅ではありません。生き残った人びとはほっとしますが、そこに、大飛行船隊が100トンの爆弾を抱えて日本に接近中というニュースが。日本は「カモフラージュ作戦」で対抗します。なんと、第二次世界大戦でイギリスが本当にやったこと(『スエズ運河を消せ ──トリックで戦った男たち』デヴィッド・フィッシャー著)を、本書では“予言”しています。
 ここで著者が重要視しているのは「精神論」ではなくて「正確な情報の共有」です。悪い意味での「大本営発表」ではきちんと戦えないことを明確に表現しています。昭和7年は、5・15事件のあった年。「帝がおわす聖なる帝都が爆撃などされるはずがない」と軍部に文句をつけられないように、気を遣って書いた部分がありありですが、その“エッセンス”は明確で、しかし当時の日本には無視されてしまったのが残念です。


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